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「道理ある不一致」の時代 コロナ禍に求められる道徳教育

 日本学術会議のホームページには様々な分野の提言や報告が数多く掲載されています。その中でとても気になる報告があります。今年6月9日に公表された【道徳科において「考え、議論する」教育を推進するために】というタイトルの哲学委員会哲学・倫理・宗教教育分科会の報告です。

 

 学習指導要領の一部改正によって小学校では2018年より、中学校では2019年より完全実施された「特別の教科 道徳」についての問題点の指摘、及び展望の検討をまとめたものです。昨年4月13日の当ブログ「哲学のすすめ こどもの権利」で「子どもを型にはめる」ような倫理本に埋め尽くされた本屋さんの現状を危惧しておりましたので、この報告をとても興味深く拝見しました。

 

 報告で示された現在の道徳教育の問題点は以下の4つです。

①「国家主義への傾斜の問題」

②「自由と権利への言及の弱さの問題」

③「価値の注入の問題」

④「多様性受容の不十分さへの危惧の問題」

 

 さらに上記の問題点を克服する、よりよい道徳教育のための4つの展望を挙げています。

①「哲学的思考の導入」

②「シティズンシップ教育との接続」

③「教員の素養と教員教育」

④「教科書の検討と作成」

 

 問題点②で指摘された例に【障害者が合理的配慮を求める権利を、助けてくれた人の「親切・思いやり」として扱い、権利として要求できることを温情による救済に置き換える教材】がありました。これは、住まいのバリアフリー化に対する住宅産業界の認識の低さの遠因と読み取れました。住まいにトイレやお風呂が必要なように、バリアフリーへの対応も住まいに必要なはずです。このような道徳教育が続くようでは、住まいの問題を根本的に解決することは難しいかもしれません。

 

 問題点③では【「道理ある不一致」の時代の道徳教育】について言及していますが、まさに現在のコロナ禍において議論される「優先させるべきは人々の安全か経済か」という問題にもかかわってきます。現状の道徳教育は、特定の価値観の押し付けにとどまっているようです。批判的・反省的思考力が養われていない結果が、【現代社会において自分の信念を強化する情報については鵜吞みにして、それに反する情報に耳を傾けようとしない人々】の存在です。建設的な議論が成立するには適切な道徳教育が必須なようです。

 

 展望①の哲学的思考とは、【あるテーマや主張に対する、根本的に批判的で(根拠を問い直す)、反省的で(自分の行動や思考方法の足元を問い直す)、対話的な思考】とあります。また【「考え、議論する」道徳を正しく推進するためには、さらに哲学的思考と哲学対話を道徳科の中に深く導入する必要がある。】としています。

 

 「総合的、ふかん的観点」からも、この日本学術会議の報告は日本の道徳教育のあるべき姿を示しているものだと思います。ぜひ一度ご覧頂く事をお勧めします。      R.02.10.11