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公的な既存建物評価システム構築の必要性

 中古住宅市場において流通促進を妨げる要因は、不動産屋と消費者との間にある情報の非対称性です。日常業務として不動産を扱う不動産屋と、不動産取引が一生に一度あるかどうかという消費者を比べて、不動産に関する情報量に差があるのは当然です。その情報の価値が不動産業のニーズにつながり、適切な情報提供を求めて消費者は不動産屋へ足を運びます。

 

 消費者が不動産屋の主張を検証するのに、土地に関しては地価公示など公的な指標が示されているのに対して、建物に関しては公的な指標が存在しません。一般的に税法上の耐用年数に基づいた経済的耐用年数を建物鑑定評価の根拠として利用するのですが、これはあくまで簡易的な指標にすぎません。仕上げや部材の種類、設備の更新や保存状態、さらに使い勝手や住み心地などを既存建物評価に反映させる明確な基準や手法が確立されていないのが実情です。

 

 自宅を売却しようと考え不動産屋の査定を受けた事がある方なら、不動産屋の提示する査定書を見たことがあると思います。その査定書には様々な書式があり、建物について細かな評価項目がもっともらしく記載されているものもありますが、いずれも経済的耐用年数をベースにしたひな形による机上計算用のものです。一つとして同じものがない中古住宅を適正に評価できるかどうかは、不動産屋の力量や善意に委ねられる危うい状況、これが中古住宅査定の現実です。消費者がそれを見抜くのはほぼ不可能です。

 

 余談ですが、査定書すら提示しない不動産屋は存在しないと思いますが、万一そんな会社があれば注意してください。価格の根拠を示すことは宅建業法で不動産屋の義務として定められており、それをしない不動産屋はモグリか詐欺師です。

 

 今までの住宅行政では、新築住宅の流通促進が主であり、中古住宅はむしろ邪魔者扱いされてきたので、既存住宅の評価など税法の流用で十分でした。しかし現在、住宅行政は中古住宅流通促進へと舵を切りました。国交省は中古住宅のイメージアップのため「安心R住宅」など様々な施策を行っていますが、本当に必要なことは既存住宅を適正評価するシステムの構築だと思います。

 

 とりわけ一日も早く実現すべきなのは、地価公示に準じた中古住宅取引価格の情報開示制度です。民間の売買事例はもとより、競売物件の落札事例などを国交省のホームページ上で一元的に表示することは可能だと考えます。それがブラックボックス化された中古住宅流通市場を、透明で公正な安心できるものへ変えることにつながり、ひいては市場活性化の要となるはずです。

 

 中古住宅に対する負のイメージを植え付けてきたのは住宅政策であり、その負のイメージを取り払うことが出来るのも住宅政策です。中古住宅に限らずどんな商品でも、情報の非対称性の解消が流通市場活性化の必須条件だと思います。      R.02.05.10