ブログ

崩壊する宅地 地学リテラシーの必要性

 【「宅地崩壊 なぜ都市で土砂災害が起こるのか」 著者:釜井俊孝 発行:NHK出版】

 

 近年、豪雨による地すべり等の土砂災害が頻発しています。その要因として環境破壊による異常気象があるのは間違いないと思いますが、都市で発生する土砂災害に関しては起こるべくして起きていることを著者の釜井さんは指摘しています。

 

 京都大学防災研究所の斜面災害研究センター長を務める著者の釜井さんは、長年地すべりに関する研究をされてきた方です。本書では一般の方向けに宅地に潜むリスクをわかりやすく記されています。この本は我々不動産屋にとって必読の書です。

 

 大規模な宅地造成で谷埋め盛土が作られた高度成長期。当時から地質学者や地形学者が、谷埋め盛土で地すべりが発生するリスクを指摘していたようですが、数十年後に実際に被害が出るまで無視されてきました。地震による影響も考慮すべきでしょうが、谷埋め盛土と地下水位の関係を見れば、谷埋め盛土地すべりはあきらかに人災と言えるものです。

 

 本書は告発の書でもあります。戦後の住宅不足を手っ取り早く解消しようとした国、利益優先の宅地開発に注力したデベロッパーやハウスメーカー、その流れに身を任せ思考停止に陥った消費者。誰もが被害者であり加害者でもある社会に警鐘を鳴らしているかのようです。

 

 本書で釜井さんは、不動産業が持続可能なビジネスとなるためには、不動産情報の透明化という視点が必要だと指摘しています。「聞かれないから答えない」などの詭弁がまかり通る不動産取引の世界。「不利な情報でも開示する不動産屋さんが、報われる状況が望ましい」との釜井さんの言葉に勇気づけられました。      R.02.05.24