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馴染む

 「馴染む」という言葉にどのような印象をお持ちでしょうか。「幼なじみ」、「昔なじみ」、「おなじみ」、「顔なじみ」、「なじみのお店」など、往々にして自己と他者との関係における調和を表現する言葉として用いられます。「馴染む」と表現される時間をかけて築かれる良好な関係性は、人に安心感や気持ちのゆとりをもたらすものだと思います。

 

 現在の住まいを取り巻く状況は、このような関係性を否定するもののように感じます。その根底に文化的な価値観と対極をなす新しいものが良いという価値観があります。消耗品として考えられる工業製品などは新しいものが良いでしょう。品質低下や陳腐化などを受け入れる事は利便性の面でもマイナスに働きます。しかし本来はそのような工業製品ではない住まいにも同様な概念が持ち込まれてしまい、「新築信仰」のような価値観が定着しているのが残念ながら住宅業界の現状です。

 

 中古住宅を扱う不動産業界でも「建物は20年、30年経ったら価値はゼロ」とうそぶく方々がとても多いです。もちろん昔から大量生産される低品質な家もありますので、実際に30年経つと手の施しようのない状態になる家も少なくありません。一方で大工さんなど職人の手により丁寧に建てられた家もたくさんあります。その様なピンからキリまである住まいを同列に扱う不思議な風習が、不動産業界ではまかり通っているのです。その結果、数十年かけてやっとなじんだ頃に家を建て替えたりする極めて不経済でおかしな行為が正当化されてしまい、現代人の心の余裕の無さを生み出すひとつの要因ではないかと思われる「スクラップアンドビルド」は今も日本全国で行われているのです。

 

 馴染む為には時間が必要です。時間をかけて住まいも地域の風景やコミュニティに馴染みます。心にゆとりをもたらす住まいは積み重ねられた時間によって作り上げられるものです。時間をかけて育まれる価値があります。「スクラップアンドビルド」では人と人のつながりが育まれないことと同じ様に。     H.30.09.20