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住まいは文化 住まい政策に欠けるもの

 人の繋がりと営みが生み出すものが文化です。共通の価値観とそれに基づく人々の生活様式によって物質的、または思考的に形づくられます。独善的なものは文化ではありません。ただ母体となるコミュニティ集団が小さければ、「サブカルチャー」と呼ばれたりするものもあります。

 

 住まいについて考えてみます。なお言葉の定義として、住宅とは人が生活するための建築、構造物のことであり、住まいとは住宅を中心とした生活様式全般の事とします。ですから、住まいと住生活とはほぼ同義と考えます。住宅と住まいの意味の違いについては、住宅市場(住宅価格)はあっても、住まいの市場(住まい価格)はないことを考えて頂けるとわかりやすいかもしれません。

 

 住まいの権利に関する日本の法律には、「公営住宅法」と「住生活基本法」があります。それぞれの目的は以下の通りです。

 

 「公営住宅法」

(この法律の目的)第一条 この法律は、国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする。

 

 「住生活基本法」

(目的)第一条 この法律は、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策について、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体並びに住宅関連事業者の責務を明らかにするとともに、基本理念の実現を図るための基本的施策、住生活基本計画その他の基本となる事項を定めることにより、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の安定向上と社会福祉の増進を図るとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

 

 

 もちろん住まいに関連する法律としては、民法をはじめ他にも「建築基準法」や「都市計画法」などがあります。そして「借地借家法」がありますが、以下、その「趣旨」についてご覧下さい。

 

 「借地借家法」

(趣旨)第一条 この法律は、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。

 

 

 「公営住宅法」と「住生活基本法」の第1条が「目的」であるのに対し、「借地借家法」の第1条が「趣旨」となっている点に注意してください。参議院法制局のホームページにに目的規定と趣旨規定についての説明があります。以下、その内容です。

 

 【法律には目的規定又は趣旨規定が第1条として置かれることが一般的です。平成29年~令和元年の3年間で成立した54本の新規制定法(一部改正法などを除く。)のうち、39本が目的規定を、9本が趣旨規定を置いています。

 目的規定は、その法律の制定目的を簡潔に表現したものです。一方、趣旨規定は、法律の内容を要約したもので、制定の目的よりも、その法律で定める内容そのものの方に重点があるといえるでしょう。これらの規定は、それ自体は具体的な権利や義務を定めるものではありませんが、目的規定は、裁判や行政において、他の規定の解釈運用の指針となり得ます。】

 

 

 一般的に「借地借家法」は借地借家人の権利を守る法律と考えられていますが、あくまで「裁判手続きに必要な事項」を定めたものにすぎません。ここでお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、持ち家所有者の住む権利についてはそれを守る法律はありません。民法では所有権について触られる程度、不動産登記法は「取引の安全と円滑に資すること」のための権利保全でしかありません。

 

 さらに、「公営住宅法」は低額所得者に限定したもの、「住生活基本法」は「国民経済の健全な発展に寄与すること」を目的とした経済優先思想の範囲内での国民生活について触れたものであり、日本には国民の居住権を保障することを目的とする法律は存在しません。いわば日本国民は、住む権利を保障されていない状態なのです。

 

 その結果、経済成長を優先する市場原理主義のイデオロギーが浸透した日本では、スクラップアンドビルドによる立ち退きが日常茶飯事となり、住宅は文化となる前に消滅する運命を背負わされたのです。国民の居住権が保障されていないことが、欧米と比較して極端に短い日本の住宅寿命につながるのです。日本の住宅はサブカルチャー化したと言えるのかもしれません。

 

 今日は文化の日です。住まいが文化となり得る社会とは、人々の住む権利が守られる社会です。上記のような心もとない法律しかない日本で居住権が守られているのは、日本国憲法に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」のたった一文が存在するからなのです。文化について考えることは人々の営みを守ることにつながります。今日は住まいの事から文化を考える一日としてはいかがでしょうか。        R.04.11.03