国土交通省が取りまとめる令和3年度住宅市場動向調査報告書が先月末に発表されました。報告書の中で注目したいのが中古住宅を選ばなかった理由です。最も多いのが「新築の方が気持ち良いから」。次いで「リフォーム費用などで割高になる」、その次に「隠れた不具合が心配だったから」となっています。この3つの理由はこの5年間ずっと上位を占めています。
ことごとく合理的なものではなく単なる心理的イメージを理由としているのは驚きです。「気持ち良いから」は読んで字のごとく、「割高」も「気持ち良い」新築との比較から導き出され、「心配」も中古住宅に対するイメージに起因するもの。「住宅は人生で一番高額な衝動買い」と言われるのも納得です。いくら「安心R住宅」と言って性能や品質をアピールしても響かないわけです。
「隠れた不具合」が不安なのは当然です。でも考えてみてください。なぜ不具合が出るのでしょうか。それは初めから不具合が出るように建てられた建物だからです。意図的か、無知によるものか、未熟な技術のせいなのか、それともそれら全てなのかはわかりません。ただ、新築時に仕掛けられた時限爆弾は中古住宅となったときにしかわからないので、中古住宅は不具合が多いと誤解されるのです。
「割高」のイメージは性能や品質が同じ場合でも、中古は新築より安いと言う固定観念がある場合に感じやすいものです。「だったら新築に」と言って、時限爆弾が仕込まれた新築住宅を選択するケースは少なくないのではないでしょうか。ちなみに住宅設備に関して、新築は予算を気にして標準タイプを選択し、中古住宅をリフォームする場合は高グレードのものを選択する傾向があるようです。
「気持ち良い」ものは人それぞれの感性によりますが、直感的に好きか嫌いかを判断するその感性はどのように磨かれるものでしょうか。音楽を例に考えるとわかりやすいかもしれません。流行はメディアによって作られます。多くのメディアが発信する情報は、多くの人に届けられます。テレビの音楽番組は、ジャパネットのような通販番組と同じで、商品を売り込む広告です。単純接触効果はとても効果的で、最近はユーチューブやSNSを入り口にしてテレビにつなげるマーケティングが盛んです。ハウスメーカーのCMをテレビで見ない日はありません。印象操作は身の回りに氾濫しているのです。
新築住宅が良いのではなく、新築住宅のイメージが良いというのが、日本の住宅市場の寂しい現実です。圧倒的な資本投入により作られたイメージを覆すのはまず無理でしょう。毎年確実に生み出される新しい欠陥住宅がそのストックを積み増している現実を覆い隠し、中古住宅に罪を擦り付けていればそのイメージは安泰です。
ところで最近、NHKのドラマで「正直不動産」が人気のようです。私も漫画の単行本をずっと愛読してきましたので、毎週楽しみにしています。ちょっと前ですが、「インスペクション」を取り上げた放送回がありました。「中古だからインスペクションを」といったニュアンスのセリフがありましたが、「新築こそインスペクションを」が正直な気持ちです。中古住宅を取り扱う不動産会社は、かつての新築住宅に仕掛けられた時限爆弾の処理に追われる毎日なのです。 R.04.05.25