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改正建築物省エネ法 地球温暖化対策とは

 パリ協定を踏まえた地球温暖化対策のために、住宅の断熱性能や気密性を向上させエネルギー消費量を削減しようと、改正建築物省エネ法が公布されたのは昨年2019年5月の事でした。その中に戸建住宅等に係る省エネ性能に関する説明の義務付けも盛り込まれ、来年2021年4月から設計者から建築主への説明が必須となります。

 

 300㎡未満の小規模非住宅・住宅では適合義務化が見送られたため、施主に対する説明は省エネ性能基準に適合か非適合かを説明すればよいようです。これは、新築住宅のおそよ4割は非適合である上、中小工務店や建築士への省エネ基準の習熟状況調査で約5割が一次エネルギー消費量計算と外皮性能計算ができないと回答したことを踏まえ、実務への影響を考慮した結果のようです。

 

 この状況だけを見ると、中小工務店や建築士の勉強不足や意識の低さを指摘して、非適合住宅を質の悪いものと決めつける人が出てくる可能性がありますが、これはスペック偏重の弊害であり、スクラップアンドビルド思想の残滓と考えます。

 

 そもそも地球温暖化対策の削減目標において既存住宅の断熱改修促進の割合は、新築住宅の省エネ性能向上の約8分の1程度しかありません。地球温暖化対策としては空き家問題や資源の有効活用の観点からもまず既存住宅を考えるべきなのに、なぜこんなことになるのでしょうか。おそらく計算が面倒なのでしょう。新築であれば、設計段階の数値を根拠として計算できます。しかしこの考え方が、結局スクラップアンドビルドへつながります。空き家問題は、既存住宅の活用を考えず、資源の無駄遣いを繰り返してきた結果にすぎません。地球温暖化対策と言いながら、結局思想は相変わらずなのです。

 

 さらに高断熱高気密の住宅では換気設備が重要なのですが、例えば熱交換型第1種換気で計画換気を行う場合、換気口フィルターの汚れで性能は大幅にロスされます。また、間取りによっては換気ダクトの長さや太さや曲がりにより想定する換気が出来ない場合もあります。それを補うために換気量を増やせば消費電力や音の問題も出てきます。また台所換気扇などの局所換気との併用で換気量のバランスも崩れ負圧の状況が生まれます。気圧の変化が起きやすい住まいがどの程度体調に影響を及ぼすのか想像も出来ません。つまり高断熱高気密住宅は、改善される可能性があるのは換気設備次第で大きく変化する温熱環境だけなのに、間取りの制約や健康への悪影響が出てくる可能性があるのです。そのため省エネ基準では金科玉条のように扱われるC値、UA値、Q値等のスペックはあくまで参考数値として考えるべきだと思います。

 

 省エネ性能の向上を否定するつもりはありません。むしろ積極的に取り入れるべきだと考えます。しかし高断熱高気密の実現にもトレードオフがあり、住宅の使用状況によっては厳密な机上計算とかけ離れた省エネ性能となることを見落としてはいけないと考えるのです。理論的な数値はあくまで非現実的な条件が前提となります。その条件のひとつは基本的に人が生活しないことです。窓は閉め切り、極力外出はせず、外気の影響を絶つ必要があります。洗濯物や布団も室内干し限定、設備の故障や停電など想定外です。

 

 住宅の快適指数という絶対的な数値は存在しません。暑がりな人と寒がりな人が同じ部屋にいることを想像するだけでもわかるはずです。家造りはスペックだけではなく、様々な人が長い年月生活していくことを考える必要があります。多くの中小工務店や建築士は、建物や家族の変化を実際に見てきています。頭でっかちな机上の空論が、日本の建築文化を劣化させないことを祈ります。      R.02.08.19