コロナ禍で健康に対する意識が高まっています。近年は健康寿命を延ばすために、日頃から運動や食生活に気を付けることが推奨され、生活習慣病という言葉が浸透していることからも、健康は自己責任という認識を持つ方が多いのではないでしょうか。もちろん健康に関して個人で出来ることは色々あるかもしれませんが、それは頑張れば報われるといった通俗道徳に通じる精神論的な偏った考え方です。
人は性別、人種、国や地域など、生まれる環境を自分の意思で決定することは出来ません。つまり自分の力で健康をコントロール出来ていると考えるのは自惚れにすぎないのです。
社会的地位が低いほど健康状態が悪いという、歴然とした健康の不公平がこの世の中には存在します。WHOの「健康の社会的決定要因に関する委員会」が報告書をまとめて、健康の公平性のための様々な勧告を出しています。
例えば、【公正な雇用と適切な労働】という項目では労働環境の不平等について。
「公正な雇用と適切な労働条件の保障を通して、政府、雇用主そして労働者は、貧困をなくし、社会的な不公平を低減し、身体的・心理社会的な危険への曝露を減少させることができ、それは人々の健康と幸福の向上にもつながる。そして健康な労働力が生産性向上に役立つのは当然である。」
その行動の根拠となるエビデンスは以下の通りです。
「労働は、多くの重要な健康への影響が発現する領域である。これには雇用条件と労働の性質そのものとが含まれる。柔軟な労働力は、経済競争力の観点からは良いものとされるが、健康への影響を伴う。長期雇用労働者に比べ臨時雇用労働者の死亡率が有意に高いというエビデンスがある。不安定労働(期間の定めのない雇用契約、無契約雇用、およびパートタイム労働)は精神衛生上の問題の発生と関連している。また雇用不安を感じる労働者は大きな身体的・精神的影響を受けることも知られている。
労働の条件もまた健康と健康の公平性に影響を与える。悪い労働条件は、身体的健康に害を与えうる様々な危険に人を晒し、それらはより地位の低い職業に集中する傾向がある。高所得国に存在するより良い労働条件は、何年にもわたる労働者の組織的行動と、規制の整備などの多くの努力によって実現したものであるが、多くの中・低所得国では、ひどく欠けているものである。職場におけるストレスは、冠状動脈性心疾患のリスクを50%増加させ、また仕事における高負担、低裁量、そして努力と報酬の不均衡は、精神的・身体的疾患のリスク要因であるという一貫したエビデンスが存在する。」
コロナ禍で雇用の不安が広がっています。健康になる条件のひとつに、公正な雇用と適切な労働条件の保障があることを知る必要があります。はたして柔軟な働き方をすすめる「働き方改革」は健康に役立つのでしょうか。 R.02.05.04