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トリクルダウンと抑圧移譲の原則

 「トリクルダウン」とは、富裕層が潤えば、そこから滴り落ちる富が庶民にも行き渡るという経済理論です。「抑圧移譲の原則」とは、丸山眞男さんが「超国家主義の論理と心理」で表した概念で、権力者の抑圧が下のものへ順々に発散される仕組みのことです。トリクルダウンは妄想でしたが、抑圧移譲は日常茶飯事です。そこから見えてくるのは、明確な格差社会をつくり出した権力構造の存在です。

 

 コロナ禍における「自粛警察」のニュースは、犯罪行為の放置であり、法治国家の崩壊の序章と考えます。窃盗やひき逃げ事件などは、警察の威信を保ち社会不安を鎮静化させるために、逮捕者が出たことをニュースとして扱います。あきらかに威力業務妨害罪であったり、器物破損罪である「自粛警察」の行為は、本来警察が取り締まる犯罪行為ですが、逮捕者が出たというニュースは出てきません。社会のガス抜きとして政府は大目に見ているのでしょうか。

 

 社会の構成員数は変化しても、構成員割合は変化しないと思います。抑圧される人々がいなくなれば、次のターゲットはその上へ順々に移ってゆくだけですが、誰も自分がターゲットになるとは考えていないようです。自粛要請に従い外出を控えることが出来る階層の人々から見ると、テレワークをしない企業や営業を続けるパチンコ店やそのお客さんをニュースで見て、歯がゆい思いに駆られるのは当然だと思います。ニュース映像は抑圧移譲の原則を促すツールかもしれません。

 

 トリクルダウンするのは富ではなく抑圧だけのようです。残念ながら吸い上げられる富のように、抑圧が吸い上げられることはありません。権力の支配構造を補完する全体主義の罠から逃れるために、抑圧の責任の所在が権力者にあることと、富の源泉が社会の構成員全員にあることを認識する必要があります。朝三暮四の猿のように、考えることを忘れてしまうと未来はありません。     R.02.05.02