下関市において、令和2年3月2日より立地適正化計画に基づく届け出制度が始まります。ほとんどの方はご存知ないと思いますので、制度の概要をお知らせしたいと思います。まずは以下、国土交通省のHPにある制度創設経緯の引用です。
「我が国の都市における今後のまちづくりは、人口の急激な減少と高齢化を背景として、高齢者や子育て世代にとって、安心できる健康で快適な生活環境を実現すること、財政面及び経済面において持続可能な都市経営を可能とすることが大きな課題です。こうした中、医療・福祉施設、商業施設や住居等がまとまって立地し、高齢者をはじめとする住民が公共交通によりこれらの生活利便施設等にアクセスできるなど、福祉や交通なども含めて都市全体の構造を見直し、『コンパクト・プラス・ネットワーク』の考えで進めていくことが重要です。
このため、都市再生特別措置法が改正され、行政と住民や民間事業者が一体となったコンパクトなまちづくりを促進するため、立地適正化計画制度が創設されました。」
「子どもたちをはじめとする」のではなくやっぱり「高齢者をはじめとする」んだという点はさておき、コンパクトシティを目指すために、居住誘導区域外での一定規模以上の住宅の建築行為等や、都市機能誘導区域外での誘導施設の建築行為等の際に令和2年3月2日からは届出が必要となります。立地適正化計画は宅建業法上の重要事項説明において法令上の制限に該当する制度なのです。
もともと立地適正化計画は2014年の都市再生特別措置法によって創設された制度です。計画策定は任意なのですが、国からの手厚い支援制度があることから、当初の予想以上に多くの都市が取り組んでいるようです。そんな流れの中、この下関市でも制度開始となります。とても大事な制度なので、市民への周知を徹底させなければならないものと考えますが、ほとんどの市民の方にとって事後報告の様なかたちとなっており、とても残念です。
なぜ残念と思うのか。
立地適正化計画では居住誘導区域を設定することで、ゆるやかな人口移動を目指していますが、これはスプロール現象により空洞化した市街地の人口密度を高める効果、または今以上の人口流出を防ぐ効果が期待されます。しかし、逆に郊外の居住誘導区域外のエリアでは過疎化が進むことを意味します。つまり、都市計画法施行時から全国各地で民間事業者が正しく行政の許可を得たうえで開発した町の空洞化を促進することにつながるのです。空き家問題に関して言えば、中心市街地の為に郊外の町を切り捨てるようなものです。この点に関する対策は現時点では一切見えてきません。このまま立地適正化計画が順調にすすむことによって、一方的に不利益を被る可能性がある人が相当数発生することになり、そのほとんどは制度自体を知らない人たちであるという点を疑問に感じるので残念と思うのです。
また現時点では居住誘導区域の設定までですが、居住調整区域の設定も可能な制度である点については、更に知らない方が多いと思います。不動産会社の方ならご存知だと思いますが、市街化区域と市街化調整区域の違いの様なものが設定される可能性があるのです。調整という言葉は、基準に適合させるという意味があります。つまり居住を認めない区域区分がこの制度では認められるのです。ゆるやかな人口移動の計画が想定通りに進まなければ、この強力な規制措置である居住調整区域の出番となります。
今回の制度に関するパブリックコメント実施結果が下関市のHPに掲載されています。令和元年10月1日から令和元年10月31日までのたった1カ月間だけ実施され、4名の応募者から6件の意見が出されたようです。ちなみに令和2年1月末日現在の下関市の人口数は260,614人です。
日本国憲法第22条1項には「何人も公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」とあります。法令による人権の制約とも解釈できるこの立地適正化計画。知らなかったでは済まされない大事な制度です。当然行政側も市民へ事後報告では済まされない制度ですが、パブリックコメント実施結果だけ見ると、制度の周知徹底がされたとは言い難い状況の様に感じます。今月4日に立地適正化計画の届出等に関する説明会が1回だけ実施されたようですが、この説明会に関する告知は下関市のHP上で説明会の約2週間前の令和2年1月20日付けでの掲示でした。
制度が実施される以上、我々不動産屋は制度の内容をお客様へ伝えていかなければなりません。持続可能な都市経営を実現するには住民や民間事業者の参加が必須です。なお不動産会社の皆さんには、不安に思われるお客様へ法令による規制が合理的であるかどうかを判断する違憲立法審査制度がある点もあわせてご周知頂きたいと思います。 R.02.02.21