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市場原理主義に翻弄される住宅問題

 2020年1月からドイツの首都ベルリンで、民間の賃貸住宅の家賃について5年間値上げを禁止するようです。今朝の朝日新聞の記事では、不動産業界から「社会主義への逆戻りだ」との批判が出ているとありました。この「社会主義への逆戻り」という表現がとても気になりました。

 

 他国と比較して賃料相場の安かったベルリンの賃貸住宅に目を付けた不動産会社が、既存の賃貸住宅を買いあさって再開発を行い、その結果、家賃が10年で倍以上に値上がりしてしまい、一般市民がベルリンに住めなくなる、というのがおおまかな流れの様です。民間の賃貸住宅の家賃設定は需要と供給のバランスで自由に決定されるべきです。不動産業界だけでなくとも、投資コストから算出されるサービスの対価を法律で制限されることになれば不満は出てくるのは当然です。

 

 一方、住民の8割以上が賃貸住宅で暮らすベルリンの一般市民にとって、家賃の高騰は居住権を脅かされる事態です。そのため市民のデモが頻発し、行政としても無視出来る状況ではなくなったようです。強力な借家人同盟があるドイツでさえ、賃貸住宅に住む人々の居住権が脅かされる状況にあることは驚きでもあります。「貧乏人は都会に住む権利はない」という言説がはびこる異常事態です。

 

 今回の「家賃凍結」の法律は、家主の権利侵害にあたり、戦時中の国家統制の様な暗黒時代を想起させます。「社会主義への逆戻り」という批判が起こっても仕方がないように思えるかもしれません。しかし、そもそも市民の8割以上が賃貸住宅に暮らすベルリンにおいて、公営住宅は十分に整備されているのでしょうか。住宅問題は福祉政策の第一歩です。日本でも公営住宅不足が深刻化していますが、行政の住宅政策の不備から慢性的な住宅不足が発生し、家賃の高騰につながっている状況であるならば見方は変わります。

 

 市民の居住権を守る福祉政策は社会主義的な政策です。医療、子育て、介護、教育などの福祉政策も全て社会主義的な政策です。その意味では「社会主義への逆戻り」は必要な事だと思います。欲に目がくらんだ金持ちから生活を脅かされる一般市民を守ろうとする行政という構図を演出し、緊縮財政政策による福祉の切り捨てといった根本的な問題から目をそらす意図が「社会主義への逆戻り」という言葉ににじみ出ているような気がしてならないのです。

 

 世界の動向は近い将来の日本の動向と重なる可能性があります。理想の住まいを提供する不動産屋になるために、「井の中の蛙大海を知らず」とならないように努めたいと思います。    R.01.12.29