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田舎の風景と生存本能 都市化からの脱却

 みなさんは田舎の風景と言って、なにを思い浮かべますか?

 

 風にそよぐ緑の稲、川のせせらぎ、森に響く野鳥の声、山並みに沈む夕日。おそらく人工物より自然のものを想像するのではないでしょうか。

 

 反対に都会の風景を考えた場合は、自然が排除された空間を想像すると思います。都市化は利便性と経済性を追い求めた極めて人間的な空間造りだと思います。つまり目先のことを最優先する短絡的な思考によるものを都市化と考えます。だから都市にはスクラップアンドビルドが馴染むのでしょう。ただそんな享楽的な人類の営みはヒートアイランド現象や地球温暖化を発生させてしましました。

 

 ヒートアイランド現象とは都市部の気温が周辺より高くなる現象です。気温の分布図で都市部分が島のように周辺から浮いて見えることから名付けられたようです。地面はアスファルトで覆われ、コンクリートの建物が林立する都市部にしか起きない現象です。

 

 地球温暖化は温室効果ガスの排出など人間活動が原因となる気候変動により地球の気温が上昇することです。このことは台風や豪雨の増加につながり、ひいては浸水や土砂災害による被害の拡大をもたらします。

 

 地球温暖化と気候変動につながる温室効果ガスの排出の要因となるのが都市化です。都市に林立する多くの建物には、コンクリートが使用されています。コンクリートはセメントから作られ、そのセメントの生成において石灰石から大量のCO₂が化学反応により放出され、同時に大量の化石燃料が消費されることでもCO₂が排出されます。

 

 しかもコンクリートは熱伝導率が高く断熱性はないかわりに蓄熱性があるため、昼間蓄えられた熱を夜中に放出するのです。このことがヒートアイランド現象の要因となります。

 

 このようにコンクリートは、温熱環境の面でも環境負荷の面でもとても不利な素材ですが、都市で増加する人口を限られた土地に押し込めるには建物の高層化が必須であり、その点にコンクリートの活躍の場が生まれたわけです。また、道路や河川整備、ダムや防潮堤などの公共事業にも大量に使用されています。自然は征服できるものと考えていた時代が長く続きました。

 

 しかし近年、度重なる豪雨などによる自然災害から様々な研究が進み、自然との共存への理解が広がってきています。

 

 例えば水田。水田には周辺地域の気温上昇を緩和させる効果があります。気化熱と蒸散によるものです。水田では、蒸散による気温上昇の抑制と、気化熱による周辺地域との気温差で気圧の差が生まれ、風が発生します。さらに田んぼダムという言葉が浸透してきているように、水田には雨水を貯める機能があります。株式会社クボタのサイト「クボタのたんぼ」に以下のような記述があります。

 

「日本の水田の面積は約280万ヘクタール。整備された田んぼ140万ヘクタールには30cm、未整備の田んぼ140万ヘクタールに10cmの貯水能力があるとすると、60億トンの水を溜めることができます。これは現在、日本にある洪水調節ダム(300カ所以上)の約4倍の能力をもっています。」

 

 そして森林。森林には水源かん養機能があります。林野庁のHPでは、「森林の水源かん養機能は、水資源の貯留、洪水の緩和、水質の浄化といった機能からなり、雨水の川への流出量を平準化したり、あるいは、おいしい水を作り出すといった森林の働きです。」とあります。

 

 森林を切り開いて道路をつくり、水田を埋め立て住宅地を広げてきた結果、気候変動も相まって、森林からは土砂が流れ出し、宅地化で雨水は貯まることなく川へ流れ、土砂災害や洪水が頻発する負の循環が生み出されたように感じます。

 

 田舎の風景で思い浮かぶ田んぼと森林。郷愁を誘う風景へのあこがれは、実は人間の生存本能からくる過度な都市化への警鐘なのかもしれません。

 

 今年の夏は、帰省先や旅行先で自然の価値を見直す夏にしてみませんか?     R.05.07.25