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住宅政策の欠陥 人間と自然の断絶

 技術的な進歩が精神的な進歩をもたらすことはありません。

 

 例えば、自動車。日々進化を遂げる技術により、人の運転技術を補う機能が開発されていますが、一向に自動車事故は無くなりません。むしろ本来は危険を伴う運転への恐怖感を運転者から奪うことで、安全意識の欠落を招いているようです。道路交通法すら順守できない運転者の気分次第で、人が殺され続けている現実からは、運転者の精神的な退化しか読み取れません。

 

 住宅も似た部分があります。昨今の住宅性能向上主義への偏重は、人間本来の住まい方の質を低下させているように感じます。

 

 例えば最近の家造りでは、断熱性や気密性の確保のために開口部分を減らしたり、自然光を遮断するサッシを採用します。「自然を遮断すること」=「住宅性能の向上」とみなす論理が根底にあるようです。

 

 では、自然を遮断した家では何が起きるのか想像してみてください。太陽光不足は人間の生体リズムへ大きな影響を与え、うつ病の要因となります。エアコンや扇風機の風が苦手な人も多いと思います。湿度や室温を一定に保つために、犠牲にしていることを、しかもその犠牲にしていることが人間の健康にどれほど大きな影響を与えるのか想像してみてください。

 

 今、日本の住宅政策が目指しているのは、人間と自然の断絶です。

 

 自然を支配する能力は人間にはありません。自然を離れて生きる能力も人間にはありません。なのになぜか住宅産業においては、自然を目の敵にする情報が大量に溢れています。日本政府もそれを後押ししています。官民一体で自然に対するネガティブキャンペーンを展開しているのが、日本の住宅政策の悲しい実態です。

 

 初めての家造りで失敗したくないと考えて、インターネットや情報誌でたくさん勉強する真面目な人ほど、フィルターバブルやエコーチェンバーによる洗脳状態に陥りやすいものです。真面目に高気密高断熱のいわゆる住宅性能の高い家造りを勉強して、C値、Q値、UA値などの数値比較を熱心にしているはずです。そうすることが正解だと強く信じて…。

 

 技術の進歩は素晴らしいものです。しかし、その対価、つまり犠牲にしていることを想像することはもっと大切です。シックハウス症候群も建材等に含まれる化学物質が要因であること、つまり科学技術の進歩の対価であることは、被害が拡大してやっと判明しました。アスベストによる健康被害もそうです。臨床試験もなく新しい化学物質が採用される住宅産業は、公害の温床と言えるかもしれません。

 

 住まう人々の健康を第一に考えるのであれば、住宅はある意味で保守的になる必要があると思います。つまり積み重ねられてきた先人たちの知恵や工夫、つまり伝統の承継を考えることです。その土台の上に築かれる技術の進歩ではなく、その土台を壊す技術の進歩では、住宅は文化となり得ません。つまり失敗の繰り返し、ギャンブルのようなものでしかないのです。

 

 自然あっての人間であることを忘れないこと。そんな当たり前のことが当たり前に行われる住宅政策の策定を強く望みます。        R.05.05.16