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人を殺す家を放置する住宅政策の欠陥 生命の尊厳と住まい

 消費者庁のHPに「生命・身体にかかわる危険」に関するお知らせが掲載されていますが、そこに「年末年始に増加する高齢者の事故に注意しましょう! – 浴室での溺水事故、餅による窒息事故、掃除中・除雪中の転倒・転落事故等に注意 -」という注意喚起があります。年末年始の時期に起こりやすい高齢者の事故防止を目的とするものです。

 

 そこで紹介されている資料を見ると、令和3年人口動態調査では、家・居住施設の浴槽で亡くなった方は4750人になるそうです。さらに疾病に起因する病死も含めて入浴が関係する死亡者数が約19,000人(平成25年推計)、2011年の1年間でヒートショックに関連した急死者数が約17,000人(うち高齢者は約14,000人)にものぼるという調査結果も紹介されています。

 

 交通事故による死亡数が減少傾向であるのに、溺水による死亡数は横ばい傾向です。この比較は溺水による死亡数を減らす対策が不足していることを物語っています。交通事故のニュースは毎日目にしますが、溺水事故がニュースになることはほとんどありません。そんな状況では多くの人にとってヒートショックは他人事でしかないでしょう。

 

 賃貸住宅業界では高齢者の、とくに単身の高齢者の入居を断るケースをよく耳にします。いわゆる孤独死を嫌う大家さんの立場で考える不動産会社がほとんどではないでしょうか。人が亡くなる原因を排除せずに、亡くなる可能性が高い人を排除する。これが賃貸住宅業界の実態です。

 

 このことだけ見るといかにも不動産屋が悪いとなりそうですが、はたして短絡的にそう断罪しても良いものでしょうか。

 

 国土交通省の住宅セーフティネット制度では、高齢者、障害者、子育て世帯等の住宅の確保に配慮が必要な方を「住宅確保要配慮者」と呼び、「住宅確保要配慮者」の入居を拒まない民間の住宅を増やそうとしています。住宅セーフティネットの根幹である公営住宅を増やすことはせず、昨今の空き家対策と抱き合わせのコスパ重視の政策です。国のやる気が感じられます。しかも配慮が必要となる原因を排除しようという発想がないため、「住宅確保要配慮者」にとって相応しい住宅であることは二の次です。あくまで初めの一歩と見れば仕方のないことなのでしょう。その視線は目の前の問題から目を逸らし、数十年、100年先を見据えているのでしょうから…。

 

 人の生命の尊厳を踏みにじることに痛みを感じていないように思える業界は住宅産業に限ったことではありません。死亡数は減少傾向とはいえ、あいかわらずクルマによる悲惨な事故は頻繁に起こります。それにもかかわらず最先端の技術を誇る自動車産業は、道路交通法を守り事故を無くすクルマは作りません。また生活習慣病と呼ばれる疾病の原因となる食べ物、タバコ、酒類の販売や生産を制限する小売店や製造メーカーはありません。それに産業界全体で過労死がなくなる気配は感じません。そもそもそんな状況を変えようと考える人自体が極めて少数派のようです。

 

 住宅の話に戻ります。アパートで孤独死を無くしたいのなら、人を殺さない部屋にしましょう。まずは窓の断熱や段差を解消することを考えるのです。国も新築住宅中心の予算配分を見直し既存住宅の改修へ舵を切ることが、空き家を増やさないことになり、国民の生命を守ることにつながることに気付くべきです。ちなみに平成30年住宅・土地統計調査の結果、空き家総数848万9千戸、うち半分以上の455万5千戸が賃貸用等空き家とあります。新しい賃貸住宅は増え続け、古い賃貸住宅から借り手を奪い取り、その結果空き家が増える。賃貸住宅産業は空き家生産産業でもあるのです。

 

 孤独死を減らす方法も、空き家を減らす方法もわかっているのに、論点の整合性に欠ける住宅政策を続け、そのツケを払わされ続けるのは誰なのか。不動産業界で賃貸住宅に携わるひとりひとりが、その問いに向き合い、生命の尊厳について考えを深めて欲しいと思います。     R.05.01.16