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「非正規」という呪文 資本主義経済の理想と現実

 小売店などで大量発注の見返りとして商品単価を大幅に下げ、特売セールの目玉商品とするような話はよく耳します。逆に希少性を売りにする商品は数が少ないため割高で売られています。資本主義経済における需要と供給の関係性は子どもから大人まで説明するまでもなく理解されているところですが、労働の対価には逆の力学が働くようです。

 

 厚生労働省のホームページに「同一労働同一賃金特集ページ~雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保について~」という特集ページがあります。そこに同一労働同一賃金について以下のような説明があります。

 

 【同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。

同一企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の解消の取組を通じて、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにします。】

 

 あなたは「非正規」という言葉の意味をどうのように考えますか。正式に決められたものに非ず、とは誰にとって?そう、あくまで雇用主側の見方に過ぎません。同じ仕事をしているのに会社の都合で正規と非正規に区分する風習。非正規と言われるとなんとなく後ろめたい気になりませんか?企業はそんな労働者の心理につけ込み、賃金単価を下げても法律で決まった事だからと悪びれる様子もありません。

 

 企業側にとって都合の良い非正規雇用労働者は需要が高いのに、なぜか供給側の労働者にとって不利な条件がまかり通る雇用の現実。資本主義経済における需要と供給の関係性を無効化するワードがまさに「非正規」なのです。

 

 しかし一方で資本主義経済においては「資本」こそ正義です。つまり労働者の大量発注、安売りセールを可能にする論理は資本主義経済の社会だから成り立つものです。需要と供給の関係性とは、実は「資本」の暴力的な二面性をカムフラージュするものなのかもしれません。

 

 需要と供給の関係性は、記憶に新しいマスクの転売ヤーなどの方便としても利用されますが、このような倫理観など無きに等しい利潤追求者は別として、需要の高い非正規雇用労働者の賃金はむしろ正規雇用労働者の賃金よりも高くなるのが資本主義経済における正義なのではないでしょうか。

 

 「同一労働同一賃金」とは、適正な労働市場のスタートラインに過ぎないのです。つまり本来はいわゆる正規雇用労働者の賃金の方が割安で、企業の都合に合わせてくれる希少な非正規雇用労働者の賃金が割高となるのが適正な労働市場のはずです。

 

 希少な労働力が適正な賃金で報われることがなくなって久しい日本社会は、いつわりの経済成長を演出するために基幹統計の改ざんにまで手を染めてしまう始末。

 

 そもそも利潤の源泉は労働です。だから資本と労働は対等でなければ資本主義経済は破綻します。資本家だけでなく全ての労働者が快適な住まいを持てるような経済成長を目指すのであれば、「同一労働同一賃金」と謳う前に、「非正規」という表現を止めることから始めてみてはいかがでしょうか      R.04.09.27