ブログ

戦争と災害 命を守るための選択

 先日6月19日に、石川県能登地方で震度6弱の地震が発生しました。犠牲者の報告がない点は不幸中の幸いですが、浸水や土砂災害も発生する可能性が高い梅雨時期に起きた地震は、複合災害に対する警鐘を鳴らすものだと強く感じました。

 

 先月5月9日に、第13回防災学術連携シンポジウム「自然災害を取り巻く環境はどう変化してきたか」が実施され、現在その時の講演の模様をYouTubeでも視聴することが出来ます。とても貴重な講演をいつでも誰でも視聴出来ることに感謝したいと思います。ただ、公開から1か月以上経過しても、再生のカウント数が伸びていないことはとても残念です。少なくとも地方自治体の防災関係者は業務に関する知見を得るためにも必ず視聴してもらいたいものです。

 

 これからの時期は大雨による災害が必ず発生します。全国的にハザードマップの整備が進みましたが、それで終わりではありません。その情報をもとにした実効性のある避難計画や救助計画を整備し、その訓練を徹底することで、ハザードマップが意味のあるものになるのです。その点では、まだまだ道半ばといったところではないでしょうか。しかも、現行のハザードマップでは、災害の種類によって違う避難所や避難経路を俯瞰的に把握することが困難であるため、複合災害発生時に避難したつもりで被害にあうケースも想定されます。

 

 上記のシンポジウムの日本地震工学会による「救助活動に関わる環境の変化」を見ると、初期救助活動における一般市民の力がいかに大切かがわかります。災害が起きれば助けが来ると考えている方も多いと思いますが、道路も寸断されたり、夜間であれば被害状況の確認もままなりません。救える命を救うためには、消防や自衛隊の到着を待つ間に、自分たちで出来ることと出来ないことを考えておくことが求められます。

 

 同じくシンポジウムの日本建築学会による「震災・水災・土砂災害等の複合災害とレジリエントな建築・まちづくり」を見ると、複合災害建築に関してはまだ始まったばかりであるとのことです。専門性の高い分野であればあるほど、横断的な知見の共有が難しいものかもしれません。しかし、最近は「心ある建築家、構造設計者」によるマルチハザードに対応した建築も増えてきているようです。建物の発注者である一般市民も、予算の兼ね合いもあるでしょうが、災害に対する認識を更新しておく必要がありそうです。

 

 同じくシンポジウムの地盤工学会「安全はカネで買うもの」では、防災に従事する人々への正当な対価が支払われていない現状を知ることが出来ます。前述の「心ある建築家、構造設計者」とは、もしかすると顧客の安全のために自身の正当な対価を削っている人なのかもしれません。住宅でも、太陽光発電設備や住宅設備にはお金をかけるけど、目に見えない品質には無頓着な人も少なくありません。設計や現場では、そうは言っても最低限ここまではやらなくてはとの責任感や義務感から、少ない予算内でのやりくりに頭を悩ませる人は多いはずです。

 

 参議院選挙が明日公示されます。ウクライナ侵略戦争に乗じた防衛予算の積み上げを公約に掲げる政党もありますが、度重なる震災、土砂災害や水害を経ても防災予算の積み上げの声は一向に聞こえてきません。むしろ、東京都は想定被害を少なく見積もる「首都直下地震等による東京の被害想定」を先月末に公表したりしています。想定外と言えば済むとでも思っているのでしょうか。

 

 人知れず身を削り、防災に取り組む多くの人々に守られている日本は、ある意味ではボランティア大国と呼べるのかもしれません。せめて身の回りに存在する防災に取り組む人々に気付くことが出来る社会であってほしいものです。      R.04.06.21