ブログ

他心通 赤心片々 心不可得 不動産の適正価格とは

【『正法眼蔵』の心 著者:有福孝岳 発行:日本放送出版協会】

 

 下関市長府にある曹洞宗功山寺の住職である有福孝岳さん。その有福さんが平成6年に書かれた本を読み、不動産の適正価格について考えました。

 

 正伝の仏法を中国から日本に伝えた道元禅師。その道元禅師が正しい仏の教えを人々が正しく理解する助けとするために著したのが『正法眼蔵』です。その『正法眼蔵』を正しく理解する助けとするため有福さんが著した本が【『正法眼蔵』の心】です。

 

 コロナ禍でますます疲弊する世界。市場原理主義や自己責任論などによって、困っている人を追いやり自分さえよければという利己的な考えが日本でも蔓延っています。テレビで格付け番組がもてはやされるのも、そんなすさんだ社会の空気のせいかもしれません。人を人として見ることを止めてしまうとどうなるか。戦争の記憶や歴史さえも都合よく書き換えられてしまう時代はとても危険だと感じます。

 

 格付けは比較から始まります。比較は基準が必要です。基準はみんなおなじでなければなりません。基準は、規則、ルール、常識などと表現されます。住宅も性能評価による格付け制度があります。土地では、路線価や公示価格などの基準が示されています。基準に縛り付け、多様性を否定することが格付けです。

 

 

 『さて、事物を前後関係や因果関係の観点から考察するということは、事物がそもそもそういう関係をもつからではなくて、むしろ事物を考察している人間の主観的な枠組みにすぎない。』

 

 

 「人間の主観的な枠組み」に囚われる限り心を理解することは出来ない。過去心不可得、現在心不可得、未来心不可得。「みんなちがって、みんないい。」と金子みすゞが歌ったように、心を主観的な枠組みから解放すると、価値観は一変します。

 

 残念ながら日本の住宅は新築信仰が主流です。それは住宅を経済対策としての側面でしか見ない住宅政策の枠組みのせいです。つまり住宅を金勘定で格付けして、住む人の心も金勘定で縛り付けてきた結果なのです。人の心はみな違います。住み心地を格付けする価値観ほど滑稽なものはありません。

 

 

 『すなわち、赤心は各人の全力投球(「尽力現成(じんりきげんじょう)」)としての真心である。したがって、赤心を一つ二つと数量化することもできず、また長短や是非善悪によって区別することもできない。真心は、一にして全であり、是非善悪を越えている。このありさまを「片々」というのである。』

 

 

 一水四見(いっすいしけん)という言葉があります。一つのものも見る者によって全く違うものとして認識される。区別や数量化できない真心を、主観的な偏見で理解したつもりになる過ちを犯してしまう人間の性を表しています。

 

 

 『考えてみれば、衆生無辺誓願度という誓願を満たすためには、われわれは一切衆生の苦悩を見抜く力を必要とする。最も優れた意味での慈悲心が生じてくるためには、衆生の苦悩をたちどころに見破る力、仏教的な優れた意味での「他心通」という「神通力」を絶対的に必要とする。』

 

 

 不動産は一つとして同じものはありません。そして、その不動産とつながる人々の心も一つとして同じものはありません。だからこそ不動産の適正価格とは、不可得な心を見通す力を得んとする不断の努力と実践無くしては実現し得ないものだと痛感しました。それと同時に、その求道を社是とした必然を四弘誓願と重ねた涅槃会の2月15日でした。        R.04.02.16