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安心して住める家 社会保障の基盤となる住宅

 1995年7月社会保障制度審議会は「社会保障体制の再構築」という勧告を行いました。以下その一部を引用したいと思います。

 

 「住宅、まちづくりは従来社会保障制度に密接に関連するとの視点が欠けていた。このため、高齢者、障害者等の住みやすさという点からみると、諸外国に比べて極めて立ち遅れている分野である。」

 

 「 我が国の住宅は豊かな社会における豊かな生活を送るためのものとしては余りにもその水準が低く、これが高齢者や障害者などに対する社会福祉や医療の負担を重くしている一つの要因である。また、少子化の一つの要因として、都市部における居住スペースの狭さも指摘されている。この意味から、最低居住水準を引き上げ、それを上回る住宅を国民に確保することが、まず何よりも社会保障の基盤づくりとなる。」

 

 

 その後、1999年「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」、2001年「高齢者の居住の安定確保に関する法律」、2006年「住生活基本法」、2007年「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティーネット法)」などの法整備が進みました。

 

 

 冒頭の勧告でも「これまでの我が国の住宅政策は、主に住宅の数と広さの量的拡大を目標とし、身体機能が衰えた場合の居住可能性には余り配慮がなされてこなかった。」と指摘されているように、日本国憲法第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」とする生存権にかかわる住宅政策の歴史はまだ始まったばかりなのです。

 

 

 ちなみにかつて目標とされたとする住宅の広さについては、「住生活基本法」に基づく「住生活基本計画」において以下のような2種類の指針が示されています。

■誘導居住面積水準

(1) 一般型誘導居住面積水準 ※一戸建て
① 単身者 55㎡
② 2人以上の世帯 25㎡×世帯人数+25㎡
(2) 都市居住型誘導居住面積水準 ※マンション
① 単身者 40㎡
② 2人以上の世帯 20㎡×世帯人数+15㎡

■最低居住面積水準

(1) 単身者 25㎡
(2) 2人以上の世帯 10㎡×世帯人数+10㎡

 

 

 文字通り「最低」をベースラインと考え、目標として「誘導」水準を示しているものですが、例えば4人家族の場合、「誘導」水準で考えると一戸建ては125㎡、マンションは95㎡となります。住宅流通市場の現状は、残念ながらほとんどが「最低」水準を満たす程度の広さしか確保されていません。

 

 

 気候変動対策として環境負荷を減らす住宅は経済政策との相性も良く派手に喧伝されますが、生存権の保障を考える住宅は地味な扱いです。勧告から26年の歳月を経た現在、社会保障体制の再構築は実行されていると言えるのでしょうか。安心して住める家、住まいの本質を考えるためには、住宅政策の歴史を知ることも大切だと思います。      R.03.12.22