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国際女性デーに読む上野千鶴子 市民権とジェンダー

 【「生き延びるための思想 ジェンダー平等の罠」 著者:上野千鶴子 発行:株式会社岩波書店】

 

 昨今の政治家や官僚の収賄に関するニュースは、この国に公正な競争市場が存在しないことを世界中に知らしめてしまいました。企業の利益のために競争しなくて済むようにするには、権力にすり寄る賄賂が一番なのでしょう。国家権力は政治家や官僚のものではないはずなのですが、分相応にわきまえることを知る取り巻き連中に囲まれると誰でも偉くなったと勘違いしてしまうのかもしれません。

 

 そして同じ過ちを犯しているのが、暴力によって女性や子どもを服従させる男性です。非力な女性や子どもは圧倒的な暴力の前にはなす術もありません。やられたらやり返せるのは力を持った人だけです。DVや虐待は家庭内の事として警察など公的機関も及び腰でした。そのため私的領域である家庭は法律や刑罰の及ばない無法地帯となり、男性の暴力はエスカレートしていきます。多くの犠牲者が出てやっと最近になり、DVや虐待が少しづつ事件化されるようになったのは、わきまえない勇気を持った人がいたからだと思います。

 

 女性が男性と同じことをすることがジェンダー平等ではありません。ジェンダーの差異を認識し、それを受け入れて、現代社会がいかに男性中心の考え方に偏っているかを理解しなければなりません。そういった視点を持つことがスタートです。

 

 「女性は買い物に時間がかかる」と言った政治家もいますが、このような俗っぽいステレオタイプに染まった考え方を持つ人は少なくありません。ヘーゲルですらその著書【法の哲学】において、【もし女性が政治の頂点に立つとすれば、国家は危険におちいる。女性は普遍性の要求するところに従って行動するのではなく、偶然的な愛着や意見に従って行動するからである。】と述べているのです。

 

 献立や家計のやりくりに頭を悩ませる男性が増えれば、買い物に時間がかかる男性も増えます。普遍性の要求するところに従って行動しなければならない役回りを男性が独占しなければ、女性が政治の頂点に立っても国家は安泰です。作られた社会システムを、さも自然の摂理のように考える愚を止めること。それがジェンダー平等への唯一の道だと思います。

 

 自助や自己責任を強いる社会は、強者の理論によって作られています。そしてそんな強者も自分に都合の良いルールを作ることによってでしか生き延びることが出来ません。この上野千鶴子さんの本を読んでいると、ジェンダー平等の実現は、そんな欺瞞に満ちた社会をかえることにつながるかもしれないと思うようになりました。     R.03.03.08