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The end of the innocence 無邪気なままではいられない時代

 「Talking to the moon」と聞いてブルーノ・マーズではなく、ドン・ヘンリーが思い浮かぶ世代なのですが、そのドン・ヘンリーが1989年に発表した傑作アルバムのタイトルトラック「The end of the innocennce」を本ブログのタイトルに引用しました。ブルース・ホーンズビーとの共作で、ウェイン・ショーターのソプラノサックスのソロパートもお洒落な名曲ですが、歌詞がとても味わい深い作品です。

 

 人生や時代において唐突に訪れる大きな変化。ほろ苦い現実と淡い憧憬の入り混じったその世界観は、彼の声質とも合わさって聞く者に心地良い痛みをもたらします。あくまで私見ですが、ドン・ヘンリーのソロアルバム1作目「I can’t stand still」は春、2作目「Building the perfect beast」は夏、そして3作目の本作が秋とそれぞれ季節を表現しているように感じます。

 

 ところで「The end of the innocence」が発表された時代は、レーガン大統領が推進したレーガノミクスによりアメリカ社会の経済格差が広がりだした時期です。サプライサイド経済学の理論に基づき小さな政府を標榜した経済政策は、減税や規制緩和をすすめる市場原理主義であり、富裕層の所得が上昇する反面、金利引き上げと通貨供給の抑制で失業者は増え、社会保障費の切りつめで貧困層が一層困窮する事態となりました。今回のアメリカ大統領選挙の行方を左右したラストベルトにおける白人貧困層の拡大はこの時代から始まります。

 

 レーガン大統領の時代が格差社会の始まりだとすれば、トランプ大統領の時代は分断社会の始まりと言えるのではないでしょうか。はたしてバイデン氏は、アメリカ社会の分断を結束に転換することは出来るのか。

 

 無知、無邪気、純真。イノセンスの終焉は問題の核心をつかもうとする努力へとつながります。「The end of the innocennce」ではじまり「The heart of the matter」で終わるこのアルバムは、まるで現在のアメリカ社会の混迷を描いたかのように感じます。最後に結束へのヒントとなる「The heart of the matter」の歌詞を引用したいと思います。

 

【I’ve been tryin’ to get down to the heart of the matter

But my will gets weak

And my thoughts seem to scatter

But I think it’s about forgiveness

Forgiveness

Even if , even if  you don’t love me anymore】      R.02.11.08