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通学路の安全対策 人優先の道路整備

 2015年の国連サミットで、全会一致で採択されたSDGs:持続可能な開発目標。そのなかに、「2020年までに、世界の道路交通事故による死傷者を半減させる。」という目標があります。また日本の第10次交通安全基本計画において、「平成32年までに24時間死者数を2,500人以下とし、世界一安全な道路交通を実現する。」、「平成32年までに死傷者数を50万人以下にする。」というふたつの目標を掲げています。いずれも今年がその目標の年です。

 

 宇沢弘文さんは、その著書【社会的共通資本 発行:株式会社岩波書店】の中で、社会的共通資本についてこう述べられています。

 

「一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する。」

 

 また「社会的共通資本の考え方は、自動車の社会的費用の概念を明確に理解するために考え出されたものであった。」とも述べられています。詳しくは、【自動車の社会的費用 発行:株式会社岩波書店】で説明されています。

 

 人を無視した「くるま社会」に対する憤りを持つのは宇沢弘文さんだけではないはずです。「令和2年版交通安全白書」によると、令和元年中の道路交通事故死者数は3,215人とあります。そのうち1,176人が歩行中、433人が自転車乗車中の事故で亡くなられています。道路交通事故死者数は年々減少傾向が続いていますが、歩行中・自転車乗車中の死者数の割合は主な欧米諸国との比較で約2倍だそうです。

 

 同白書では、道路交通の安全についての施策として、「生活道路等における人優先の安全・安心な歩行空間の整備」を挙げています。下関市においては、「下関市通学路交通安全対策プログラム」が策定されており、毎年「下関市通学路安全対策検討箇所一覧」が公表されています。通学路の危険箇所を報告し、改善を図る取り組みです。通学路だけを切り取ってみても多くの危険箇所があることから、如何に歩行者にとって道路が危険であるのかがわかります。

 

 第10次交通安全基本計画の中では、道路交通事故による経済的損失についても触れられています。内閣府による「交通事故の被害・損失の経済的分析に関する調査研究」(平成24年3月)によると、道路交通事故による経済的損失は、6兆3,340億円と算定されるそうです。もちろん事故の被害者やその家族にとっての苦しみの大きさを知る由もありません。宇沢弘文さんは、【社会的共通資本】のなかでこうも述べられています。

 

 「自動車事故にともなう生命、健康の喪失にかんする社会的費用は、このような新古典派経済学の枠組みのなかで考えられるべきものであってはならない。むしろ、このような自動車事故が可能なかぎり最低限に抑えられるような道路構造を想定して、このような道路をつくるために現実の道路を改造するためにどれだけ費用がかかるかということによって、自動車事故にかんする自動車の社会的費用が推測されなければならない。」

 

 昨日トヨタ自動車が、今年度の業績予想において純利益が1兆4,200億円になると公表しました。コロナ禍で日本経済のけん引役を担う大企業の数字に市場関係者は大いに沸いたことでしょう。この勢いで是非とも社会的共通資本である日本の道路を、車だけでなく人にも開放して頂きたいと思います。     R.02.11.07