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多数決を疑う 多数派の民意でも切り捨てられる現行制度

 【「多数決を疑う 社会的選択理論とは何か」 著者:坂井豊貴 発行:株式会社岩波書店】

 

 山口県が新たに取得した公用車が物議を醸しだしています。このコロナ禍という時期も問題ですが、県民の総意とは言い難い判断ではないでしょうか。今回ご紹介したい本は、選挙で当たり前に使われる多数決という意思集約方式の欠陥を指摘し、それに代わる意思集約ルールを示してくれるものです。

 

 多数決が多数派の意見を反映しないと言うとにわかに信じ難いかもしれませんが、本書では選挙の実例などから丁寧に説明してくれます。そして多数決以外に存在する集約ルールとして、ボルダルール、コンドルセ・ヤングの最尤法などが紹介されます。筆者は本書においてこう述べています。

 

 【「民意」という言葉はよく使われるが、この反例を見るとそんなものが本当にあるのか疑わしく思えてくる。結局のところ存在するのは民意というより集約ルールが与えた結果にほかならない。選挙で勝った政治家のなかには、自分を「民意」の反映と位置付け自分の政策がすべて信任されたように振る舞う者もいる。だが選挙結果はあくまで選挙結果であり、必ずしも民意と呼ぶに相応しい何かであるというわけではない。そして選挙結果はどの集約ルールを使うかで大きく変わりうる。】

 

 日本国憲法第96条の改憲条項についても触れています。「衆参で三分の二」以上の賛成が見かけ以上に弱いというのです。それは得票率が高くなくても圧勝する小選挙区制度に起因するようです。2014年12月の衆議院選挙で、自由民主党は全国の投票者のうち約48%の支持で、約76%の議席を獲得したことを例として挙げています。そのため、国民投票の改憲可決ラインを現行の過半数から64%程度まで高めるのがよいとしています。

 

 また小平市の都道328号線問題を取り上げています。小平市では250億円をかけて作られる予定の都道の建設への賛否を住民投票で決めることになりました。反対派が住民投票を実現するために非常に高いハードルを乗り越え議会で住民投票の実施が可決されたのですが、市長が「投票率が50%に満たない場合は開票しない」という成立条件を求め、それが議会で可決されたのです。結果、2013年5月26日に行われた住民投票の投票率は約35%となり小平市は開票しなかったそうです。ちなみに市長が当選した選挙の投票率は約37%だったそうです。

 

 多数決という集約ルールが、選挙においては民意を反映しないことが理解できます。特定の層が選挙で勝つためのルールではなく、民意をあまねく反映できるルールへの改革が望まれます。

 

 本日10月12日大阪市で「大阪市廃止・特別区設置住民投票」が告示されました。ニュースなどでは「大阪都構想」と謳われていますが、今回の住民投票で大阪都が出来るわけではありません。また投票者数や投票率に関わらず賛否の決定が成立するようです。大阪市民の方々の民意が反映される結果となることを期待したいと思います。     R.02.10.12