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つくられた格差 アメリカの現状に見る日本の未来

 アメリカのトランプ大統領の所得税問題がニュースとなっていますが、本日ご紹介したい本は、アメリカの税制が如何に不公平であるかを様々なデータ分析から詳らかにしたものです。

 

 【「つくられた格差 不公平税制が生んだ所得の不平等」 著者:エマニュエル・サエズ/ガブリエル・ズックマン 訳者:山田美明 発行:株式会社光文社】

 

 本書の序章で、前回のアメリカ大統領選挙の前に行われた大統領候補テレビ討論会でのヒラリー・クリントンとドナルド・トランプのやり取りが取り上げられています。以下、本書からの引用を記載します。

 

 【クリントンは、不動産開発業で巨万の富を築いたトランプがこれまでにどれほど納税を回避してきたかを明らかにしようとして、こう述べた。「カジノのライセンスを申請したときに提出した納税申告書しか公開されていませんが、それを見るかぎり、彼は連邦所得税を一銭も支払っていません」。するとトランプは、誇らしげにそれを認め、「それは私が賢いからだ」と返した。これにはクリントンも二の句が継げなかった。】

 

 本書の著者は同じく序章でこう記しています。

 

 【トランプのあの一言は、アメリカ社会が破綻していることを明らかにしている。富裕層が税金を支払わないのが当然となってしまった結果、大統領候補がそれを堂々と認め、対立候補が明確な解決策を打ち出せない状況が生まれた。つまりアメリカでは、民主社会の最重要制度である税制が機能していない。本書を執筆した目的は二つある。第一に、アメリカがこのような状態に至った経緯を正確に把握するため、第二に、それを修正するためである。】

 

 本書ではアメリカの税制の変遷を見ながら、レーガノミクスにおける税制改革や租税回避産業を断罪し、現在のアメリカの分断社会を創造したシステムを解き明かしています。そして、新たな税制の構築により不平等な格差社会を是正する可能性を示してくれています。

 

 ちまたで流布される市場原理主義の嘘を論破していく筆致は爽快です。おそらくそう遠くない未来、日本も現在のアメリカと同じような状況に陥る可能性があります。そうならないために、今できることを教えてくれるのが本書です。現在の不平等社会を良しとしない著者の義憤と情熱を感じた一冊でした。      R.02.09.28