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オープンダイアローグとは何か 社会の分断を再生する為のヒント

 【オープンダイアローグとは何か 著者+訳者:斎藤環 発行:株式会社医学書院】

 

 自粛要請下で真面目に我慢する人は自由にふるまう人を攻撃し、まだ感染していない人は感染者や感染しそうな人をばい菌扱いする。野放しにされる自粛警察と差別の横行、見捨てられる社会的弱者の人々。トップダウンで感染拡大防止の責任が押し付けられた日本の人々は、互いに相手の立場を慮る余裕を奪われてしまっています。

 

 相手を慮るために必要な「対話:ダイアローグ」がなくなり、自己の要求を主張する「独白:モノローグ」ばかりが幅を利かせる荒廃した世の中。いま必要なのは対話です。オープンダイアローグという精神医療における手法が、この分断された社会を治すヒントになるのではないかと思います。

 

 オープンダイアローグという言葉は、森川すいめいさんの著書【その島のひとたちは、ひとの話をきかない 精神科医、「自殺希少地域」を行く 発行:青土社】で初めて知りました。この本では、森川さんが自殺者の少ない地域を訪れ、現地の人々と交流することによって見出した共通項が、オープンダイアローグの原則と重なることが記されています。この本に感銘を受け、もっとオープンダイアローグという考え方を知りたいと思い、表題の本に出会うことが出来ました。

 

 著者の斎藤環さんは、ひきこもりの問題に関する本を多数著わしている精神科医です。その斎藤さんによるオープンダイアローグについての解説と、実践者たちによる厳選論文が掲載されたのが表題の本で、とても親しみやすい文面で、オープンダイアローグについて詳しく知ることが出来ました。

 

 オープンダイアローグには、「不確実性への耐性」、「対話主義」、「社会ネットワークのポリフォニー」という原則があるのですが、その原則を全て逆にした政策の結果が、コロナ禍による社会の分断と言えるのかもしれません。

 

 斎藤さんはオープンダイアローグについての感想を「まるでジャズのアドリブのようだ」と仰っています。そしてジャズの即興演奏について「トレーニングされた自由」という表現を紹介されています。演奏者の卓越した技術とセンスがあってはじめて成り立つジャズのアドリブと、オープンダイアローグの開かれた対話に必要となる訓練された専門性を重ねた表現だと思います。

 

 そう考えると、分断された社会を再生するためには、トレーニングを積んだ専門性の高いセンスあふれるポリフォニックなリーダー達が必要という事になります。いまの国会に「開かれた対話」を期待するのは夢物語なのでしょうか。     R.02.05.14