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釜石津波訴訟から学ぶ行政のあり方 布マスク配布に伴うリスク

 釜石津波訴訟では、釜石市と遺族が仙台高裁の和解案を受け入れ2018年に和解が成立しました。東日本大震災で釜石市の鵜住居地区防災センターに避難し津波の犠牲になった方は、市の推計で162人になるそうです。なぜ避難場所ではなかった防災センターに多くの方が避難したのか。市はセンターが避難場所ではないことを周知する義務を怠ったとして、犠牲者の遺族が市に損害賠償を求めた訴訟でした。

 

 震災の8日前、高台にある一次避難場所ではなく防災センターで津波の避難訓練が実施されたのですが、これは訓練に参加される多くの高齢者のことを考えた地元からの要請だったそうです。しかしその事情を把握していた参加者ばかりではないでしょう。また防災センターという名称も避難場所を想起させるものです。誤解から多くの方が避難場所ではない防災センターに避難し、犠牲になった可能性は否定できない状況でした。

 

 「この裁判が地域住民の命を守る行政としてのあり方を考える碑(いしぶみ)として、将来のために建設的な事実を残したい」との仙台高裁裁判官の意向を受入れ、釜石市は行政責任を認めました。釜石市の野田市長は議会質疑において、「行政として住民の命を守らなければならない立場として、可能な限り対応すべきだという前提の中で、想定できる事柄について、きちんと対応していくということが我々に課せられた責務だろうと思っています」と述べています。

 

 

 

 近々、新型コロナウイルス感染症対策の緊急経済対策の一環でマスクが配られるようです。配られるマスクは洗えて繰り返し利用できる布製のもので、「急激に拡大しているマスク需要に対応する上で極めて有効であると考えて」いるそうです。つまり政府は今回の措置で、マスク買い占めを防ぎ、マスク供給体制を正常に戻す経済的な効果を期待しているようなのですが、配布されたマスクを着用すれば新型コロナウイルスに感染しないと誤解する人が出てくる可能性は否定出来ません。

 

 新型コロナウイルスに関しては、不確かで限られた情報しか手に入りません。そのうえ得られる情報の量や質に関する格差も存在します。社会にデマや噂が蔓延し、様々な弊害が生じています。そんな状況でマスク配布の意図を誤解した人に感染による犠牲者が出た場合を、政府は想定しているのか疑問です。行政に携わる人々には、釜石津波訴訟を思い返して頂きたいと思います。将来、行政責任を問われた政府から、「配布されたマスクを着用すれば感染しないとは一言も言っていない」という発言は聞きたくありません。     R.02.04.03