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とめられなかった戦争

 【「NHKさかのぼり日本史②昭和 とめられなかった戦争」 著者:加藤陽子 発行:NHK出版】

 

 今年は新型コロナウイルスによって最悪の幕開けとなった年として歴史に残ることでしょう。そんな感染拡大がとまらない状況において、「国難」、「戦い」といった不穏な空気を醸し出す言葉と同じ文脈で、「ワンチーム」という言葉が利用される場面を目にします。例えば、「この国難をワンチームで乗り切ろう」といった具合です。歴史学者である加藤陽子さんの著書で歴史をさかのぼると、とても不安な気持ちになります。

 

 満州事変から太平洋戦争の敗戦までの「日本が来た道」を俯瞰する本書には、現代の日本と重なって見える歴史がいつくか記されています。以下、引用文をご覧ください。

 

 【太平洋戦争中の一九四四年(昭和19年)五月四日、時の東条英機首相(陸相・参謀総長兼任)が埼玉県にある陸軍航空士官学校を抜き打ちで視察したことがあります。その目的は、『東條内閣総理大臣機密記録』によれば、「士気振作、戦力増強に資する」ためでした。士官たちに気合いを入れるための視察でした。しかしその際、首相は一人の生徒に「敵機は何で墜とすか」と質問したのです。そして、生徒が機関砲でと答えると、首相は言下に訂正しました。「違う。敵機は精神力で墜とすのである」。東条首相のおそるべき精神主義をあらわすエピソードとして、よくひきあいに出される話です。】

 

 具体的な解決策や対策のロードマップを示すことなく新型コロナウイルスとの「戦い」を国民に強要する構図とだぶって見えます。そして同調する著名人がいることはもとより、不安や恐怖を感じる一般市民のなかにも「戦い」に「ワンチーム」で臨むべきとの空気が広がっています。文化イベントの自粛ムードは、なんとなく戦時中はこんな感じだったのではと思わせる不気味な雰囲気です。やはり、歴史は繰り返されるのでしょうか。

 

 透明性の高い正しい情報が無ければ人々は混乱します。様々な情報があふれる現代社会においても、この新型コロナウイルスに関する情報は非常に心許ないものばかりです。クルーズ船の内部告発動画がすぐに削除されたり、PCR検査を巡る医療関係者の意見の対立など、何を信じたら良いのかわからない状況です。もう少し本書からの引用を記します。

 

 【ここに、当時、造船に携わっていた労働者の青年の語った言葉があります。

 この戦争は勝っても負けてもその日の生活をして居る自分達の様な労働者や其の日稼ぎの小商人達には何の影響もないのだから早く日本が負けて戦争が済めば良い。どうせ困るのは金持や上の人丈で自分等はどちらになっても大した変わりはない。 ~中略~  実際、情報が隠蔽され、発表の表現が画一化されているなかで、あるいは画一化されているからこそ、一部の庶民は隠されている事情にうすうす気づき、政府・軍部・報道に、そして戦争そのものに疑いをもちはじめていました。】

 

 新型コロナウイルス感染拡大がとまらないと、今年の東京オリンピック開催が出来なくなる可能性が指摘されています。一般市民が参加する聖火リレーでさえ自由にSNSへの動画アップができないくらい利権で固められている催しです。本当にここまでする必要があるのか科学的な根拠の見えない文化イベント開催自粛や全国一斉臨時休校の要請が、日本国民への安全配慮に見せかけたオリンピック開催を実現するための世界への安心アピールなのではなどと、いらぬ詮索がとまらない今日この頃です     R.02.03.01