【「繁栄からこぼれ落ちたもうひとつのアメリカ」 著者:デール・マハリッジ 写真:マイケル・ウィリアムソン 訳者:ラッセル秀子 発行:ダイヤモンド社】
今年はアメリカ大統領選挙の年です。前回の選挙でアメリカ国民がトランプ大統領を選んだ理由を理解するためには、上っ面ではないアメリカの地べたで起きている現実を知る必要があります。2011年にアメリカで発刊された本書は、1980年代からの30年間にアメリカの普通の人々に広がった貧困の記録を収めたものです。
新聞やニュースの中の情報しか知らない自分にとって、本書にあるアメリカの真実は衝撃的なものでした。産業構造の変化による労働者の首切り、ハリケーン被害の復興から切り捨てられた地域などで、人間の尊厳を奪われた人々にとってその怒りの矛先をどこに向けたら良いのでしょうか。
本書の中にあるヤングスタウン州立大学の労働者研究センターの共同センター長であるジョン・ルッソ教授のインタビューはとても示唆に富むものです。
【「景気刺激策のあとは、何が来るだろう。三〇年代当時同じことを言った人がたくさんいる。公共事業促進局(WPA)のあとは、何が来るのだろうかと。その”何か”は、戦争だった。それで大恐慌から抜け出せたのだ。だが当時の戦争といまの戦争のやり方は違う」「暗い話題が続く一方で、株式市場は上がっている―まるで詐欺のようだ。未来は下向きだ。アメリカの労働者や社会にとっては、上向きではない。誰もが収入が減るなか、生活を質素にしてやりくりしようとしている」「人々が持つ反感を誰が利用するのか、左なのか右なのかが問題だ。三〇年代に起きたのも同じことなのだ」】
また著者のデール・マハリッジも以下のように述べています。
【ウォール街のビッグボーイズは、世界をつかさどる者ではないかもしれないが、人の死までも商品化するような魔の実験を操っている。負けるのは私たちで、全体からすればたったひと握りの彼らが大金をつかむ。こうして生まれる怒りは、根深く危険だ。そしてそれは、誰かによって政治的に利用されるだろう。進歩主義的なポピュリズムは、二〇〇八年の選挙でチャンスがあったかもしれない。二〇一〇年の中間選挙で大きな右へのシフトがあったあと、何が起きるか見てみなければならない。二〇一二年や一六年には、おどろおどろしいポピュリズムが台頭するかもしれないからだ】
デール・マハリッジの予言は的中し、2016年の大統領選挙でトランプ氏が勝利しました。それから4年が経ち、おどろおどろしいポピュリズムは世界を席巻しています。
日本も他人事ではありません。今日も「やる気のある人が思い切って働ける環境つくり」の為という雇用制度見直しに関するニュースがありました。日本型雇用制度改革ともっともらしく言われますが、デール・マハリッジの予言を知った後では「ウォール街のビッグボーイズ」を生み出す流れのようにしか見えません。彼らの宴を続けるために私たち「メインストリート(実体経済)」が「ちょっと損をする」世の中にしてはいけないと思います。 R.02.01.28