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今里隆 屋根の日本建築

 【「屋根の日本建築」 著者:今里隆 発行:NHK出版】

 

 徳勝龍の初優勝に沸いた大相撲初場所。その舞台となった両国国技館の設計者である今里隆さんの書籍をご紹介致します。今里さんは現代日本建築の第一人者として数多くの建築を手掛けてこられました。本書はその作品について自ら振り返られた内容となっています。また本書には住まい造りに携わる者として肝に銘じるべき言葉が数多くあります。

 

【住宅は、建築家がデザインを披露する場ではなく、また人に見せるためのものでもない。あくまでも住む人が快適に暮らすためのもので、たとえデザイン的に際立つものはなくても、住む人、訪れる人への配慮が行き届いている家が、”いい家”なのである。つまりは、「人間本位」。それこそが住宅建築の本質であるということを、若い建築家たちには熟考してほしいと私は思っている。】

【形をつくるだけの仕事ではなく、建築とは、人が感じる豊かさをつくり出す仕事なのだ。その価値ある仕事をまっとうするためには、自分自身が豊かさの本質を知り、感性を磨く努力を日々続けていなければならない。】

 

 日本建築を探求してきた今里さんの言葉で語られる日本建築の魅力が本書にはあります。「風土に合った建築」として日本では木造建築に行き着くと述べられ、日本建築の奥深さを今里さんの作品から学ぶことが出来ます。

 

 力強い屋根が印象的な国技館の設計に関するエピソードもご紹介致します。

 

【五寸勾配がよろしいでしょうと、デザインを決める審議会の場で申し上げたところ、出席していた出羽海親方から、こんな意見が出されました。「相撲の決まり手には四十八手という呼び名がありますから、四寸八分ではいかがですか?」この意見に会議の出席者たちからどっと笑い声が上がり、屋根の勾配は満場一致で四寸八分に決まった。】

 

 このような大相撲の殿堂にふさわしいエピソードを許容するのも日本建築の懐の深さだと感じます。また国技館は東京都の防災拠点構想の地域内に位置することから、雨水利用や備蓄倉庫、そして1万1千人の観客が五分で避難できる避難経路など災害時の防災拠点となるべく設計上の工夫が施されているそうです。

 

 本書に触れることで、伝統に根差しながら現代的な配慮も加わることで常に進化していく日本建築の魅力が、几帳面な今里さんの人柄とともに伝わってきます。     R.02.01.27