【「三つ編み」 著者:レティシア・コロンバニ 訳者:齋藤可津子 発行:株式会社早川書房】
フランス人作家レティシア・コロンバニが本書で描いた理不尽な男女格差は、決して「よその国の物語」ではありません。第二次世界大戦終結まで女性の選挙権すらなかった日本は、現代でもジェンダーギャップ指数ではかなり低い順位です。「良妻賢母」になる事が日本人女性の役割であるかのような思想が根強く残る日本では、女性の社会進出はまだまだ先進国とは言えない状況です。「良妻賢母」の何が悪いんだと考える方は、家庭科が女子のみ必修というひと昔前の教育が沁みついているのではないでしょうか。
本書では一見男女平等のようにふるまうカナダを舞台にするサラの境遇が、日本人にとって比較的身近なものとして感じられるかもしれません。しかし、イタリアのジュリアが縛られる伝統的価値観であったり、女性は男性の所有物として扱われる絶望的なカースト制度に生きるインドのスミタの様な立場も、家制度に束縛されてきた日本人女性に重なる部分が多いのではないかと思います。さらにスミタが娘のラリータに向ける深い愛情、はじめて芽生えた恋愛感情に戸惑うジュリア、病気ではなく弱肉強食社会に打ちのめされるサラなどの心情描写は国籍やジェンダーの枠を超える普遍的なものであるが故に、男女格差の不条理をよりネガティブなものとして浮かび上がらせています。
不動産の世界では、「女性目線」・「ママがよろこぶ」などの言葉を使用する広告が散見されます。これらの言葉が表現するものは家事や育児を女性に押し付ける「良妻賢母」の価値観であり、ジェンダーギャップが無くなれば過去の遺物となるでしょう。日常に潜むジェンダーギャップに気付く感受性を磨いていくことは、より良い住まいを提供する者に必要なことだと思います。 R.01.09.10