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誰かの靴を履いてみること シティズンシップ・エデュケーション

【「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」 著者:ブレイディみかこ 発行:株式会社新潮社】

 

 本書は著者ブレイディみかこさんが、息子さんの中学校生活最初の1年半に起きた日常を綴ったものです。著者のご家族が暮らしているのは英国のブライトンという街で、一般的に「荒れている地域」と呼ばれているそうです。そんな地域の近所にある元底辺中学校(現在は中くらいのランク)に入学した息子さんやその友達の会話は、現在の英国のリアルを描き出していて、カルチャーショックを受けるものでした。

 

 英国の公立学校教育ではシティズンシップ・エデュケーションという政治や社会問題を扱うカリキュラムがあるそうです。その中で中学校では議会制民主主義や自由の概念、政党の役割、法の本質や司法制度、市民活動、予算の重要性を学ぶそうで、それだけでも驚きなのですが、期末試験に「エンパシーとは何か」と「子どもの権利を三つ挙げよ」という問題が出されたとの事。

 

 「エンパシーとは何か」の問題に息子さんが書いた答えが、「自分で誰かの靴を履いてみること」。エンパシー(empathy)は「他人の感情や経験などを理解する能力」であり、混同されがちなシンパシー(sympathy)との違いは著者によると、シンパシーは感情的状態、エンパシーは知的作業だそうです。「自分がその人の立場だったらどうだろうと想像することによって誰かの感情や経験を分かち合う能力」について中学校で学ぶ英国と、型にはめる道徳教育を行う日本の違いに愕然とし、そもそも議会制民主主義や自由について理解する土台が欠如しているのだなあと低い投票率が続く日本の現状が妙に納得出来ました。

 

 様々なバックグラウンドを持つ人々で構成される英国社会と同じ島国でありながら、島国根性丸出しの日本社会の縮図を表した様な著者の地元である福岡への里帰りエピソードも秀逸です。その他にも英国社会の多様性や市民活動の本質性、格差や貧困、そしてレイシズム等の問題が大人だけのものではなく子どもにも深く理解されている様子が本書でうかがい知れて、現在の日本において他の国についての情報が如何に少ないのかを実感すると同時に情報統制される社会への不安を覚えました。     R.01.08.27