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住宅研究のフロンティア

 【未来の住まい 住宅研究のフロンティアはどこにあるのか

  野城智也・大月敏雄・園田眞理子・後藤治・岩前篤・岡部明子・平山洋介・祐成保志著   柏書房株式会社発行 

 

 今回ご紹介する本は、住宅研究の第一人者の方々の知見に触れる貴重な機会を与えてくれる不動産業界人必読の書です。以下、本書で取り上げられているキーワードをピックアップしたいと思います。

 

 「不都合な真実」として取り上げられる住宅投資累計と住宅資産のギャップ:資産の喪失は中古住宅市場を蔑ろにした新築偏向住宅政策の当然の帰結であり、不動産の適正価格による取引が普及していない不動産市場の構造的瑕疵を示すものだと思います。今後も住宅を「耐久消費財」として考えていては、長期優良住宅が中古住宅市場で流通することになっても適正価格での取引は難しいでしょう。実際1年経っただけで数百万円も住宅の価値が本当に下がると思いますか。

 

 ネオリベラル時代の住宅システムの特徴として挙げられる″金融化″:国が景気回復のための原資として個人債務を利用し、新築住宅取得時から発生する個人資産の喪失の隠れ蓑として生まれる不動産バブルの膨張・破裂を導いたものだと考えます。その一方、金融機関による不動産担保評価システムが如何に場当たり的なものか、住宅ローンの審査基準の変遷を目の当たりにするとつくづく実感します。バブルの反省からかリーマンショック以前は、中古住宅市場では金融機関の不動産担保評価が市場価格を大幅に下回る状況が続き、そのことが資産の喪失(中古住宅価格の下落)を加速させていました。実態に即した金融商品開発が将来の住宅システムの方向性を補完するものと考えると金融機関の果たすべき役割は大きいと思います。

 

 “arrival city”「到着都市」、〈都市への権利〉:空き家問題解決の糸口となる可能性を感じました。つまり空き家は都市の伸びしろとなり得るのです。空き家に対するネガティブなイメージ(治安や防災面でのリスク)が先に立つのは、住宅の耐久消費財としての一元的な視点により一般消費者にとって住宅寿命が限定的になり、延命措置(メンテナンス)への希望が持てなくなっているからだと思います。特にドーナツ化現象により空洞化した中心市街地は都市の歴史と相関して建物の老朽化が進んでいますが、〈都市への権利〉が定着し住宅の「使用価値」が認識されれば空き家群はまさに住宅のフロンティアとなる存在だと思います。

 

 隙間の大きな住宅分野において、不動産業者が「ミドルマン」「メディエーター」「仲介者」として果たせる役割の大きさは、同時に我々に課せられる責任の重さでもあります。最新の住宅研究の一端に触れて、自分の視野の狭さを痛感しました。     R.01.06.28