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住まいとサブスクリプション

 音楽業界においてCDが売れない時代が続いています。インターネットの普及により音楽の定額配信サービスが可能となった現代は、ひと昔前と違う音楽の楽しみ方が出来るようになり、とても便利になったように見えます。しかしレコードからCDに転換する時代に思春期を送っていた者としては、そんな環境でなぜCDが売れないのか不思議です。以前はFM放送などで気になった曲を調べ、そのアーティストのアルバムを聴き、更にそのアーティストに影響を与えたアーティストも調べていく。そんなプロセスを繰り返すと、お気に入りのアーティストの作品に対する所有欲が高まり、必然的に所有するCDは増えていきます。現代はそのプロセスが以前よりも幅広く出来るようになったはずなのになぜかCDが売れない。

 

 最近問題を起こしたアーティストの作品の配信停止により、お気に入り音楽が聴けなくなった人たちのニュースを目にし、やっと状況が呑み込めました。サブスクリプションにより、様々なアーティストを聴ける機会を得る事とお気に入りアーティストの作品を所有する機会がトレードオフされているのです。お気に入りのアーティストの作品がリリースされるタイミングまでお小遣いを貯めていた昔と、好きでもないアーティストの作品も含めたサービスに毎月お小遣いを使う現代。

 

 サブスクリプションは音楽の楽しみ方を増やしてくれたようで実は逆かもしれないと考えると、住まいを取り巻く環境も音楽業界と近いものになっているのではないかと感じます。定期借家、ローコスト住宅、タワーマンションなど昨今の住宅業界をけん引する潮流は、住まいの可能性を広げたように見えますが、根底に住まいを単なる生活の拠点としてしか見ない価値観があるのではないでしょうか。便利だったら幸せですか。

 

 ノスタルジー、思い出、故郷、人の記憶にある幸福感を再生産する機能が住まいにあるはずです。近年の住宅業界を眺めると、利便性を追求することと幸せを追求することがトレードオフの関係になってしまっているように感じます。住まいの楽しみ方を掘り下げてみてはいかがでしょうか。     H.31.04.24 

 

 ※補記 「サブスクリプション」 音楽などを定額で利用するビジネスサービスのこと。最近はCDを購入し所有することで音楽を楽しむ形態から、利用する権利を配信事業者から購入し音楽を楽しむ形態への移行がすすんでいます。消費者の「所有」から「利用」へ意識の変化をとらえたビジネスモデルとして注目されています。     H.31.04.27