現在、多くの新築住宅がべた基礎を採用しています。一般の方もべた基礎だから安心と思っておられる方も多いと思います。その反面、べた基礎でない中古住宅に不安を感じる方も多いようです。この状況は平成12年4月施行の「住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下、品確法と表示します。)」及び平成21年10月施行の「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(以下、住宅瑕疵担保履行法と表示します。)」に起因します。
品確法では10年間の瑕疵担保責任が、住宅瑕疵担保履行法では瑕疵担保責任保険加入又は供託のいずれかが、それぞれ新築住宅の売り手に義務付けられました。そして瑕疵担保責任保険に加入する為には、建物が保険法人が定める設計施工基準(各法人で共通)を満たす必要があり、その設計施工基準では建築物の基礎について地盤の沈下または変形に対して構造耐力上安全なものとすることを求めている建築基準法を遵守する事が求められています。つまり、売り手が瑕疵担保責任保険に加入する為に、べた基礎を採用する動きが進んだのです。
この品確法はなぜ出来たのでしょうか。簡単に言うと欠陥や手抜き工事など新築住宅特有のトラブルが多かったからです。引渡しを受けた住宅が契約通りに建築されたかどうかを見極める事は至難の業です。住み始めて数年で床が傾いたり、雨漏りがしたりすると生活に支障をきたします。その為、最低限雨漏りや傾きなどのトラブルは防ごうとして出来た法律です。そんな事はあってはならないと思いますが、こんな法律が無いとトラブルに巻き込まれてしまう可能性が新築住宅にはあるのです。
そんなトラブルの一つ傾きを引き起こす地盤の不同沈下。新築住宅ではほとんど地盤調査が行われていますが、「現地調査チェックシート」に従い調査を行いその結果不同沈下リスクが低いと考えられる場合は、地盤調査の必要が無い事はあまり知られていません。ちなみにチェック項目には、傾斜地の場合造成後10年以上、平坦地の整地の場合は整地後5年以上という項目があります。新規造成で売り手が5年、10年という期間を待つ事はまずないと思いますが、その様な場所は不同沈下リスクが高いと言えるのです。その為、売り手は傾き等の事故が起きた場合に備えて瑕疵担保責任保険に加入する必要が有る、だからべた基礎を採用するという売り手のリスクヘッジ思想がべた基礎信仰には隠れているのです。
またべた基礎を採用する根拠となる地盤調査方法にも問題があります。現在「スウェーデン式サウンディング試験(以下、SWS試験と表示します。)」が広く普及していますが、これは保険加入の為の最低限の調査に過ぎず、永く住み続ける住まい手の事を考えた場合は、他の調査方法も併用する事を検討すべきです。効率やコストの事だけ考えているのでは、安心して家を建てる事は出来ません。きちんとした調査結果で地耐力等に問題が無ければ、べた基礎ではなく布基礎を採用する事も出来ます。簡便なSWS試験による精度にばらつきのある調査結果だけで地盤を判断する事は、オーバースペックとなるべた基礎を採用する住宅を増やすことに繋がります。
調査結果で軟弱地盤と判定された場所では、べた基礎は建物が沈下する際に均等化作用が働き、均一に沈下する事で不同沈下の防止になるのも事実です。ただしそれは、建物直下の軟弱地盤が均等に分布している場合に限定され、地層が傾斜していたり、地中に障害物がある場合等は適切な地盤補強が行われないと不同沈下の危険性は回避できません。むしろ布基礎より危険性が高まるケースもあります。ただでさえ重たいべた基礎は地中応力範囲等、沈下リスクを慎重に考慮しなければならないのです。
品確法は施行されてまだ18年、住宅瑕疵担保履行法は9年と、まだまだ歴史が浅い法律ですが、べた基礎信仰はその背景や本質が理解されずに広く一般の方々だけでなく業界の人々にも浸透している様です。不同沈下等は多くの中古住宅においては顕在化されている問題なのですが、新築住宅信仰を支えるべた基礎信仰はそんな中古住宅のメリットに目を向ける機会を奪っている様に感じます。 H.30.11.27