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自己責任論の果てに 自殺対策強化月間

 3月は「自殺対策強化月間」です。

 

 厚生労働省のHPには、各自治体における取り組みをまとめた資料が掲載されています。その資料を見ると47都道府県中、山口県のみ白紙になっています。先月28日付けの報道発表資料なので、ただ間に合わなかっただけかもと思い、山口県のHPを見てみました。精神保健福祉センター・自殺総合対策ページが見つかりましたが、最終の更新が2021年11月1日のようです。一応グーグルで検索したところ、「山口県自殺対策フォーラム2023」が今月19日に山口市で開催されるという情報が山口市のHP上に見つかりました。

 

 警察庁のHPに令和5年3月14日付けの令和4年中における自殺の状況の資料があります。それを見ると、山口県の自殺者数は205人でした。他の都道府県と比較しても決して少ない数字ではありません。

 

 厚生労働省のHPには、「自殺はその多くが追い込まれた末の死であり、その多くが防ぐことができる社会的な問題です。」とあります。「追い込まれた末の死」、「防ぐことができる社会的な問題」。この2つのキーワードは自殺対策を考える際、とても大事な部分です。

 

 つい先日、福岡県の老舗旅館の前社長が亡くなりました。福岡県や福岡県警はいずれも「適切に対応してきた」、「対応に問題はなかった」とコメントしています。このニュースをNHKのウェブサイトで最初に見た時、自殺対策の「電話での相談窓口」の表示がありませんでした。しばらくしてから表示が追加されていました。他の報道機関もほぼ同様ですが、表示すらない記事も散見されます。ヤフコメなどのコメント欄には誹謗中傷や独善的な似非正義論が消されることなく放置され続けています。

 

 厚生労働省のHPではメディア関係者への注意喚起に、「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識(2017年版)」を掲載しています。世界保健機関(WHO)によるガイドラインで、自殺関連報道の際「やるべきこと」、「やってはいけないこと」などがまとめられたものです。見事に「やるべきこと」はせず、「やってはいけないこと」をやっているインターネットは、まだまだ倫理的な問題を抱えているようです。

 

 「昨年の自殺者数は、暫定値で前年を上回り、特に中高年男性の増加や小中高生の自殺者数が過去最多」だそうです。小中高生はテレビやラジオなどの公共放送よりも、YouTubeやSNSなどのインターネットによる影響が大きい世代です。放送法問題が話題になっていますが、それは曲がりなりにも放送事業者に関する法律が制定されていることを現しています。一方インターネットに関しては無法地帯と言えるような状況です。

 

 『世界はまさしく地獄にほかならない。そして人間は一方ではそのなかでさいなまれている亡者であり、他方では地獄の鬼である。』(「自殺について 他四篇」 岩波文庫)とドイツの哲学者ショーペンハウアーは記しています。中世の魔女狩りのような世界観は、時空を超えて現代の日本でも健在で、異端者(犯罪者)とみなされると救いの道は閉ざされます。

 

 自己責任論を掲げ、鬼のような形相で個人を追い込むことが、文明社会に相応しいことだとは思えません。自殺は防ぐことができる社会的な問題です。あなたの言動が誰かを追い込み、その人が死を選択したとわかっても、あなたはぐっすり眠ることができますか?      R.05.03.14