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住宅ローン減税と給付金 不公平な再分配

 来年度の税制改正に向けて自民・公明両党の税制調査会において議論が始まりました。新聞やテレビの報道で目にした方も多いと思いますが、今回は今年の年末に期限を迎える「住宅ローン減税」の延長にあたり控除率の引き下げが取り上げられています。なお報道では「住宅ローン減税」とありますが、制度の正式名称は租税特別措置法第41条「住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除」です。それを「住宅ローン控除」または「住宅ローン減税」と言います。

 

 そもそも「住宅ローン控除」の目的ですが、総務省のホームページでは以下のように記載されています。

「厳しい経済状況を踏まえ、住宅投資を活性化し、景気浮揚の突破口にしようという狙いから、所得税における最大控除可能額を過去最大規模に引き上げ、中低所得者層の方への実効的な負担軽減となるようにするものです。」

 

 つまり景気浮揚策です。しかも対象を「中低所得者層の方へ」としていますが、実際は賃貸住宅を利用する人や所得が低く家を購入できない人には全く関係のない偏った政策です。

 

 

 NHKのニュースサイトの記事(「自民 公明 来年度の税制改正に向け本格議論開始」2021年11月26日 6時28分)には、自民党の宮沢税制調査会長の「住宅ローン減税は、税によって利益を得る『益税』が出るという問題点があり、たださなければいけない」というまるで財務省の代弁者かのようなコメントが掲載され、さらにこの「益税」について同じ記事の中で次のような解説がありました。

「仮に年末時点のローン残高が4000万円の場合、控除率が1%の今の制度では年間に40万円の税額控除を受けられます。しかし、年率0.4%の金利で住宅ローンを組んでいれば、支払い利息は年間16万円となるため、実際に払った利息を24万円上回る控除を受けられることになります。」

 

 さらにこんな文言もあります。「制度では、低金利の環境が長期化する中、1%を下回る金利で住宅ローンを組んだ場合、支払い利息よりも多くの控除が受けられるため不必要なローンの利用につながっているとの指摘も出ています。」

 

 色々と違和感を覚える記事です。解説部分の金利を0.4%としていますが、例えば山口銀行では変動金利が0.975%、10年固定金利で1.2%、福岡銀行では変動金利が0.925%、10年固定金利で1.05%となっています。地銀の利用者には支払利息との差額はほぼありません。

 

 そして「益税」という言葉ですが、これは消費税に関連した表現です。インボイス制度の実施に向けた議論の中で出てくる言葉であり、住宅ローン減税の議論において使用するのは如何なものかと思います。ちなみに日本税理士連合会は「令和4年度税制改正に関する建議書」において、インボイス制度の見直しや導入時期の延期を求めています。「住宅ローン減税」に「益税」を絡めてくるのは様々な思惑があるからなのでしょうか。

 

 いずれにしても「住宅ローン減税」の見直しは粛々と進むことでしょう。ただ、コロナ禍において税の再分配に関する議論が高まっている状況で、「住宅ローン減税」が低所得者層には分配され得ない制度であることは認識すべきです。さらに現在18歳以下への現金給付についての不公平感が取り沙汰されていますが、いずれもコロナ禍で困窮する人々に向けた再分配の施策とは言えません。

 

 岸田内閣は「成長と分配の好循環」を実現しようと訴えていますが、「住宅ローン減税」と現金給付の動きを見ると、分配に関する議論を尽くしていないように感じます。好循環を既得権益層だけのものとするのであれば、このままでも良いでしょう。しかし所得の再分配機能を担う税や社会保険の制度の趣旨を理解するならば、成長に偏った弱者を切り捨てる政策は控えるべきだと考えます。

 

 

 現在ガソリンや電気料金などのエネルギー価格の上昇は多くの人々を苦しめています。これから寒い冬になりますが、暖房がない部屋で過ごす人々も増える可能性があります。断熱性能の高い省エネ住宅で住宅ローン減税の恩恵を受ける人がいる一方で、改修もされずほったらかしの公営住宅で生活費を切り詰め寒さに耐え忍ぶ人がいる。日本の住宅政策が福祉政策とはかけ離れたものであることが理解できるのではないでしょうか。

 

 住まいは人権の根幹をなすものです。命と経済の問題を突き付けられたコロナ禍で様々な議論がなされました。住宅を景気浮揚の材料としてしか見ない政策は、命より経済を選択したものです。住まいの問題を考えるだけでも人権後進国の汚名を甘んじて受けざるを得ない状況です。

 

 人の命を救うのは医療だけではありません。住まいの問題を解決することも人の命を救うことだと考える不動産屋が増えれば、日本は現行憲法に見合う国に近づけるのではないかと考えた住宅ローン減税に関する話題でした。      R.03.11.27