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パレーシアとグレタ・トゥーンベリ 近代国民の心構え

 イギリスのバンド「The 1975」の4thアルバム「Notes On A Conditional Form」にはグレタ・トゥーンベリさんの言葉を主体にした曲が収められています。グレタさんの危険を顧みず勇気をもって自らが信じる真理を発言する姿勢は、ミシェル・フーコーの説く「パレーシア」そのもののように感じます。

 

 またグレタさんの姿勢は、今月4日の朝日新聞「折々のことば」で取り上げられていた福沢諭吉の言葉とも重なります。「平生よりよく心を用ひ、政府の処置を見て不安心と思ふことあらば、深切にこれを告げ、遠慮なく穏やかに論ずべきなり。」

 

 ドイツ人ジャーナリスト:カロリン・エムケは著書【「憎しみに抗って 不純なものへの賛歌」 訳者:浅井晶子 発行:株式会社みすず書房】で、2014年7月14日ニューヨークで白人警官に絞殺されたエリック・ガーナー氏の「今日で終わりにしよう。」という言葉を挙げ、現代社会の権力構造を告発しています。しかし、今年5月25日に白人警官によってジョージ・フロイド氏は絞殺されました。アメリカでは既視感はあきらめにつながらず、全米にデモや暴動を広げる原動力となっています。

 

 ハンナ・アーレントは著書【「全体主義の起源3 全体主義」 訳者:大久保和郎・大島かおり 発行:株式会社みすず書房】で、「民主政という統治原理は住民中の政治的に非積極的な分子が黙って我慢していることで命脈を保っているにすぎず、民主政は明確な意思表示をする組織された公的諸機関に依存しているのとまったく同じに、意思表示のない統制不可能な大衆の声にも依存している」と記しています。日本ではデモや暴動に対する拒否反応が目立ちますが、それは意思表示をしない日本人に全体主義につながる素地が熟成されつつある兆候と感じられます。

 

 日本では芸能人が政治発言することで批判されます。女性であり年少者でもあるグレタさんに対する誹謗中傷もネット上に溢れています。アメリカの人種差別問題を、まるで差別する白人側の立場で語る有色人種で差別される側であるはずの日本人テレビコメンテーターを見かけ、失笑を通り越し怒りが沸き上がります。

 

 声を上げる、信じることを言葉に表す。飼いならされた羊は幸せでしょうか。      R.02.06.17