安心R住宅とインスペクション(既存住宅状況調査)。この中古住宅の流通における消費者の不安を解消するための制度が始まって、もうすぐ2年を迎えようとしています。弊社ホームページをご覧頂いている方はご存知かと思いますが、まだまだ一般的にはあまり認知されていない制度です。なぜ認知が広がらないのかを考えてみました。
中古住宅の流通は不動産業界が担います。しかし不動産会社は建築に関して素人です。その素人が不動産の価格査定において、建物の評価も行います。その際に素人でもいかにも鑑定評価をしているかのように見えるシステムが必要です。それで築年数で一律に評価が下がるシステムが導入される事となり、「30年たてば価値がゼロ」といった虚言がはびこることにつながりました。長年、不動産業界はそのシステムの更新をすることなく、業界の悪しき慣習はまるで一般常識かのように世間にも浸透してしまいました。
一方、建築業界では戦後の住宅不足の解消のために、急ピッチで建物の生産活動を行うようになりました。その後、住宅不足が解消されましたが、新しい住宅を建て続けるために、既存の建物の価値を否定する必要が生じます。そのため「30年たてば価値がゼロ」という建築業界にとっては自己否定の様な理論を安易に採用してしまったのではないでしょうか。「建替えたほうが安い」という建築業界の常識は、今まで如何にリフォーム、リノベーション工事を軽んじてきたかの証左でもあると思います。
不動産業界と建築業界は似て非なるものですが、利益優先という観点から中古住宅の価値否定のロジックを互いに尊重し合ってきました。そんな中古住宅を否定することで成り立ってきた業界の構造が、中古住宅の価値を高める安心R住宅やインスペクションの制度の推進に障害となっているのではないかと感じます。市場原理主義の世界では既得権益を守る行動は正しいことです。川上の人間が情報を出さなければ、川下の消費者が制度の存在に気付くことは難しいはずです。
しかし時代は変わります。全国的な空き家問題を取り上げるまでもなく、持続可能な社会の実現に向けた価値観の大きな転換期を迎えた現代、消費社会の常識に対して人々の疑いの目が向けられるようになりました。安心R住宅やインスペクションの制度が日の目を見るようになったのは、そんな時代のニーズの変化によるものです。
中古住宅の流通市場を活性化するためには、まず業界の常識を変える必要があります。安心R住宅やインスペクションはその足掛かりとなる制度です。消費者の立場で考える会社かどうかの指標として、この制度の認知が広がることを願います。 R.02.03.19