物の価値を見極める「目利き」という言葉があります。骨とう品や美術品を鑑定する際によく使われます。不動産鑑定の場面でも使われます。さてここで問題です。皆さんは不動産の価格と価値の違いをご存知でしょうか。一般的には不動産の価格と価値は同列で考えられていますが、実際は一義的な価格と目的によって変化する価値を併せ持つものが不動産なのです。
例えば高層ビルが立ち並ぶ大都会の駅前の土地を考えてみます。オフィスビルを建てる場合でしたら、当然ながらその目的に最適な場所と言えるので価格も高く価値もあります。この場合は価格=価値となります。しかし工場を建てるとしたら、その目的に適した土地とは言えません。そもそも用途地域の制限により工場など建てられない場所だったりします。つまり工場を建てる場合には価格が高いだけで価値がない土地となります。この場合、価格=価値とはならず、価格>価値となります。
また土地には地価公示価格など指標となる数字があります。その価格に沿って常に土地売買が行われるとすると、転売目的で購入しても利益を上げることは出来ません。つまり転売目的ではない利用目的(価格=価値)でなければ、その土地を購入する人が現れないことになります。
しかし現実はそうはなっていません。それは「目利き」による「情報の非対称性」の存在があるからです。「今は坪1000万円だが、将来は坪1500万円で売れる」とか、「数年後予定される再開発事業によって必ず値上がりする」といった「目利き」達による投機話は、バブル崩壊後の現代もなくなりません。将来坪単価1500万円になるという情報が売り手にも買い手にも与えられるのであれば、坪単価1000万円で売買することは不可能なはずです。不動産会社が本気で「情報の非対称性」を無くす努力をすれば、地面師による詐欺被害もなくなるのではないでしょうか。
さらに不動産の適正価格を実現するためには、「情報の非対称性」の解消とともに、価格の大小を算定する「目利き」の能力以外に「見立て」の能力を不動産屋が身につける必要があります。「見立て」には、「鑑定」という意味と「なぞらえる」という意味があります。また「メタファー」=「暗喩」という意味も含みます。不動産屋は価格の大小だけで価値を判断せず、利用目的に沿った価値を見つけることが大切だと考えます。
例えば、旗竿地と呼ばれる土地を考えます。旗竿地とは広い道路とまるで旗竿の様な細い通路部分を介して接する敷地のことを言います。「目利き」であれば、評価額が劣るものとして違う土地を勧めるでしょうが、「見立て」の能力があれば、広い道路から離れた静かな場所としての価値を見出すことが出来ます。また、幅4m未満の2項道路と呼ばれる道に接した土地も、「目利き」であればそんな土地ではなく広い道路に面した土地にしなさいとアドバイスするでしょうが、「見立て」によれば車両通行の少ない安全な道として価値を見出すことが出来ます。つまり価格<価値となる不当な減価がなくなるという事です。
現状の不動産取引の場面では、「目利き」=「価格査定」は出来ても、「見立て」=「価値判断」が出来ていない事が多いように感じます。さらに中古住宅売買の場面では、売り手にも買い手にも「目利き」すら出来ていないケースが散見されます。適切な「目利き」には知識や経験が求められますが、「見立て」には何より取引の当事者に寄り添う事の出来る共感力と感性が必要です。
「目利き」だけが不動産屋の仕事と考えて「情報の非対称性」を前提とした取引を続けているのであれば、近い将来AIに取って代わられることでしょう。不動産の適正価格による取引の先にある「見立て」を必要とするビジネスこそ、本来の不動産屋の仕事であり、AIには決して真似出来ないものだと考えます。そんな不動産屋のあるべき姿を模索する毎日です。 R.02.03.08