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屋根の役割を考える

 最近すっきりしない天候が続いていますが、住宅の屋根について考えてみたいと思います。家の絵を描いてくださいと言われると、多くの方はまず三角屋根を描かれるのではないかと思います。ではなぜ屋根は三角形なのでしょうか。そう、雨を防ぐためです。雨傘と同じ原理です。上から下へ向かう雨を、うまく受け流す形が三角形なのです。当たり前の理屈です。

 

 しかし近年はデザイン性を重視し、防水性能の向上も相まって様々な屋根の形が出現しています。マンションやビルの様な水平屋根(陸屋根と言います)などはその典型的な例です。しかし、いくら科学技術の進歩が目覚ましい現代でも自然の摂理に逆らうのは難しいことです。水平屋根などは屋上のシートや板金などの劣化を見過ごすと雨漏りで大変なことになるので、頻繁にメンテナンスを行う必要がありコスト面でも手間の面でも負担となります。自然の摂理を受け入れる基本形は三角屋根なのです。

 

 そして三角の先っぽ・軒がない建物も増えてきました。いわゆる「軒ゼロ」建物ですが、これも自然の摂理に逆らう造りです。昔ながらの建物は軒の出が深く、中には窓の上に霧よけ庇までつけられたものもあります。それはまさに雨傘と同じで建物の壁や窓が雨に濡れないようにする仕組みです。窓の下端の外壁サイディングが雨垂れで汚れているお家をよく見かけます。軒の出や庇がないために起きる現象です。外観デザインを重視した結果、逆に建物の外観を損なうことになっているのです。建物の外壁を守る役割も屋根にはあります。

 

 そして屋根には音を防ぐ役割もあります。しとしと降る雨ばかりではありません。バケツをひっくり返したような豪雨が繰り返される現代は、この屋根の防音も生活の質を左右する要素としてみなければなりません。屋根を打ち付ける雨の音が気になり不安な夜を過ごした経験はありませんか。防音性能は屋根の素材に左右されます。軽いスレートや鋼板などより、重たい瓦の方が遮音性が上です。

 

 さらに屋根は日差しを遮る日傘の役割も果たしますが、遮音性と同じくスレートや鋼板よりも瓦の方が遮熱性が高いのです。そしてこのときに屋根の勾配が影響してきます。屋根の勾配(角度)が大きいほど屋根裏空間が広がります。屋根裏空間は空気の断熱層となるので、水平屋根より三角屋根の方が遮熱には有利になります。広大な屋根裏空間を持つ伝統的な平家などは、見た目の豪華さだけでなく夏の暑さをしのぐ工夫を施した合理的な構造なのです。

 

 最新の科学技術が住宅のデザインの多様性やコストダウンを実現しているのは間違いまりません。耐震性の面でも、思い瓦屋根であれば梁や柱も太くする必要がありますが、屋根を軽くすれば補強も少なくしながら耐震性を確保出来ます。しかし屋根の役割を理解すれば、イニシャルコストを下げて住宅を建てられたと思っても、実はその分性能もカットされたそれなりの住宅だったという現実を理解する人は少ないようです。

 

 「柔よく剛を制す」と言いますが、自然の摂理に逆らわない日本建築は長い歴史の上になりたっている合理的な形なんだという事が、屋根の役割を考えることで理解出来ます。     R.02.01.29