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教育にできること、できないこと

 【「日本の公教育 学力・コスト・民主主義」 著者:中澤渉 発行:中央公論新社】

 

 教育に関しての議論が高まっています。ただ経験則に基づく情緒的な意見も多く、冷静な現状分析による制度の概要が見えてこないように感じます。教育問題は様々な要素が絡み合った複雑な社会問題であるとの認識がなければ、次世代を担う子どもたちが苦しむことになります。

 

 本書において著者の中澤渉さんは、様々な社会科学理論を紹介・検証しながら、読者が「教育の公共的意義」を理解できるように導いてくれます。それと同時に冷静で論理的な構成の中にも、中澤さんの教育問題に対する熱い想い、何とかしなければという使命感が伝わってきます。

 

 就学前教育の無償化は低所得者層への影響はほとんどなく、むしろ格差拡大につながるリスクがあるとの指摘などは、公的制度の社会的意義について我々はもっと考えていかなければならないのだと気付かせてくれます。

 

 中澤さんは、今の教育現場の置かれた状況を見て、楽観的で明るい将来像を描くのは極めて難しいと仰っています。その危機感を共有することはとても大切な事だと思います。子ども達や未来に責任を感じる人にとって知っておくべきことが記された一冊です。     R.01.11.10